第19話コンカフェ
朝、鏡を見る。
髪は根元からまた黒い頭髪が生えてきて、艶がでているようだった。
母の薦めで黒に染めてもらったのでちょうどよく馴染んでいた。
うん、イイ感じ!
朝食に向かおうとすると、弟が後ろに立っていて驚く。
「うわ、びっくりした!どしたの?」
「おにいちゃん、なんかさー声が変なんだよ」
そう言うと心配そうな顔で私を見てくる優紀。
声...ああ、声変わりだから違和感を感じてるのかな。
「大丈夫だよ、それ声変わりっていって優紀ぐらいになると大人の声になるんだよ」
「でもおにいちゃん変わってないじゃん...女みたいな声してる」
うぐっ...地味に気にしていることを...。
実は私はさほど声が変わっていない...いや、多少は変わったのかもしれないのだが実感できるほどの変化を自分でも感じていないのだ。
一時期コンプレックスに感じ、オリーブオイルを直接飲もうとして吐いた経験がある。
「ひとにはな....触れていけないコトがある....!」
脇腹をつかみくすぐると叫びながら崩れていく弟。
昔から脇が弱点なので大抵ここを責めるとカタがつく。
それにしてもやっぱ成長期だからか...身長大きくなるの早いな~
私は157cmなのだが、もうじき追い越されそうな勢いなんだけど...。
優紀の成長に兄として嬉しくもありつつ、複雑な心境であった。
そうしてドタバタと慌ただしい朝の時間が過ぎ、
私たちは学校へと急いだ。
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4時限目の授業が終わり、お昼の時間がやってきた。
お弁当を自分の席で食べようとしていると一人の女子が話しかけてきた。
「天原っちさ~ちょっといい~?」
この派手めな容姿の子は
まさしくギャルという感じの彼女は私とは正反対で明るく誰とでも仲良くなれる子だ。
とはいっても、今まで直接話したことは一度もなかった。
「ん?いいけど、なに?」
「あのさぁ~バイトとかってしてるぅ?」
「してないよーしたことない!」
「まじ?じつはさーうちの知り合いの人がコンカフェやってんだけどさー」
「人足りなくてこまってるらしンだよね~」
「コンカフェ...ってなに?」
「コンセプトカフェの略!テーマにそってやってンだ~メイドとか」
「へえー!漆原さんそこでバイトしてるの?」
「うち?してないしてない!!」
なぜか漆原は腹を抱えて笑った。
その声が大きかったので他のクラスメイトも私の席に注目してしまった。
「えーメイド似合うと思うけど...」
「まじ?まーそうかもしンないね!って、そーじゃなくて!」
「働きたくても働けないンだよね」
「ふーん、なんか理由があるんだね」
「そこ"男の娘"カフェだから」
「え?男の子のメイドなの?」
「そー...男の
「な、なにそれは...女装して働いてるってこと!?」
「そだよーン。だからうち女だからダメなの」
「だからサー!天原っち、やってみてない!?」
「え!?」
食べようとしていたタコウィンナーを落としそうになって慌てて食べる。
「んぐ...なんで僕なわけ...」
「いや...天原っち以外にいなくね?ねー!?」
漆原は他の教室にいた生徒にも同意を求めるように声を掛けると、皆が首を縦に振った。
「自分の可愛さに自信もちなよ!バイト代も時給1,200円でバックもあるし!」
「うっ...時給そんなにあるの?」
「でもさすがに親にも相談しないと...」
「ンじゃーとりあえず見学だけでもしてみない??」
「そうだね...それなら...」
なんとなく了承してしまった...。
まあでも実際、時給は魅力的だしバイトは一度やってみたかったんだ。
とりあえず見学だけするなら大丈夫...うん、大丈夫だ。
それに自分がそこで働けるような器量があるとも思えないしね。
「やった!じゃー明日?とかでもいい!?確認してみるからさ!」
「うん、一応僕も親に確認とらなきゃだからさ」
「そんじゃWINEでオッケーだったら連絡してね!まってる!!」
そういうと嵐のように漆原は去っていった。
ふと周りを見渡すと、他の生徒たちがじーっとこちらを見ている。
「な、なに...?」
「働くことになったらグループWINEで教えてね!天原君!」
「天原がオムライスをつくってくれるのか...」
「ハマって破産するやつがでそう」
口々に好き放題喋るので困ったが、こんなふうに皆と話せるのは嬉しかった。
私は恥ずかしさを感じつつも、弁当の続きをその後楽しんだのであった。
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家に帰宅すると、母が夕食の準備をしていた。
高校生の私がバイトをするためには当然親の許可が必要になる。
とはいうものの、普通のバイトならまだしもコンカフェなので却下されそうなものだが。
「お母さん、ちょっといいー?」
「なあにー」
母が忙しそうに台所で背を向けたまま答える。
「あのね、バイトをしないかーって友達にいわれてさ」
「え?バイト??なにするの?」
「コンカフェっていうらしいんだけど、なんか女装して接客するみたいな...」
「え?!女装!?」
驚いた母が振り返って私の方を見る。
そりゃそうだよね、まあそういう反応になる。
却下されてもまあ仕方がないか。
「うん...友達の知り合いの人のお店らしいんだけど、困ってるらしくて...」
「とりあえず見学にきてみないかっていわれてるんだ」
「それってなんか変なお店とかじゃなくて?風俗みたいな...」
「そんなんじゃないよ!ふつうに接客するお店!!」
「うーん...お母さんはいいけど、お父さんにもきいてみないとね...」
「コンカフェっていうのも調べてみないといけないし...」
「とりあえずお父さん、車いじってるから聞いてみたら?」
「うん...わかった」
私は車庫にいる父の所へ向かった。
どうやら父は車の空気圧を調べているようだった。
「ねーお父さん」
「どしたー」
「コンカフェでバイトしたいんだけど、どうおもう?」
「んー?いいんじゃないかー。遠いのか?」
「まだ聞いてないんだけど、友達の知り合いのお店らしいんだ」
「人手不足で困ってるらしくてさ」
「あー飲食でそりゃしんどいだろ。玲もいい経験になるしやってみな」
「え、いいの...?」
「お父さんも働いてたことあるからさ~ひどいときワンオペでな...」
「その時はずっと誰か助けてくれ~!って思ってたしな」
え...お父さんがコンカフェ...!?
今の中肉中背のおじさん体型の父が、メイド服を着て給仕している姿を想像した。
オムライスにハートマークをケチャップで書いている父。
知りたくもない父の過去を知ってしまったようで少しショックを受けた。
「そか...じゃあとりあえず明日見学にいってみるね」
「おー送り迎え必要なら早めに言ってな!ご挨拶もしたいし」
「わかった!WINEで連絡するね!!」
あっさりと許可をもらったものの、複雑な心境だ...。
私は部屋に戻りWINEで漆原に許可をもらったと連絡するとすぐに返信がきた。
【まじ!?やったじゃん!こっちも見学okだから明日学校終わったら18時ちょっと前に集合ね!】
なんだかどんどん話が進んでいっている気がする。
ほんとうに大丈夫なんだろうか...。
不安に思いつつも、最近PCでネットサーフィンにハマっている紅桜に相談した。
「あら~メイド...でございますか。それは...こちらのような装いなのですか?」
PC画面を見ると、いかにもなデザインの黒いワンピースと白いエプロンのコスチュームが表示されていた。中にはミニスカートなどの露出が多いデザインも多かった。
「これは中々よき西洋の服飾でございますね...!」
そう言うと紅桜は、自分の着ている雅な衣装に手をあてた。
すると見る見るうちに姿かたちが変形していきメイド服へと変化した。
「いかがでございましょう~!似合いますか...?我が君」
そう言うと紅桜は画面のメイドがしているようにウィンクしつつハートポーズをつくりあげた。
反則なほどに似合っているその姿に私は困惑してしまった。
「すごく...似合ってます...」
紅桜は感激したようでそのあとも色々な衣装を術で自在に創り出していた。
その光景を見て
自分もこんなのじゃないよね...?
と明日が怖くなったのであった―――
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