第17話仙妖

怨霊人形事件があってから数日たった休日、

私は近所の寺の奉仕活動に来ていた。

夜中に出歩いて連絡を返さなかったことで罰として母から命じられてしまったのだ。

事情をすべて話すわけにもいかないので仕方なく行くことになった。


昔から馴染みのある寺ではあったのだが、

住職が代替わりをして地域住民とより積極的な関りをもつようになっているようだ。

新しい住職は人当たりもよく、時には夫婦喧嘩の仲裁役をするなど住民からの信頼は厚い。


「みなさん、ようきてくださいました。本日は宜しくお願いしますね」


集まった住民の前で住職が挨拶をする。

老人もいれば小さい男の子までもが集まって、寺の敷地内を清掃するのだ。

案外、掃除をするというのは気分が良いもので特に苦もなく落ち葉拾いなどをしていた。


「最近、子供が家出してかえってこんようになってなぁ...」


近くにいた老夫婦と住職が会話をしているのが聞こえたので耳を傾けてみた。


「困ったもんだで。昔は駆け込み寺なんちゅうて寺にきたもんだけどんども」

「すまほ...ができてから、子供らが何考えてるかなんて、はあわからんだ」


「そうですね、日々時代が進むにつれ混迷極まんとする渦にいるかのようです」

「とはいえ家出をするのはいつの時代も変わらないものですね」


「うんうん。おっさまがいるおかげで、わしらも迷わずにすむでありがたいだよ」


どうも最近、子供の家出が相次いでいるようだ。

もしかしたら母が怒っていたのもそれを心配していたからなのだろうか。


「迷う者あらば救うこともまた仏の道ですからね...」


そう言うと住職はちらりと私の方を見た。

聞耳をたてているのを聞かれたか...?と思いすぐ落ち葉拾いに戻る。

しかし、あの一瞬こちらをみた目つきはなんとなく嫌な感じがした。



一通りの清掃が終わると、住職が号令をかけた。


「いやあ、みなさんのおかげで何とも綺麗になりました」

「また、綺麗になったのは寺院のみならずみなさんのお心そのものでもあります」

「この機会を大事になさってください。合掌」


住職が手を合わせると、住民たちも手を合わせ始めた。

私もそれにならうように合掌する。


「それではどうぞ本殿にお上がりください、茶菓子など用意してありますゆえ」


住民たちがそろぞろと、お寺の中に入っていく。

それをニコニコと見送るように住職が見ているが、また私に視線を送ってきた。

その目はなんだか...粘着質で気味が悪い。


っと...こんなこと思ってたら罰があたりそう...。

もしかして邪気があることに気づいてるのかな、抑えてはいるはずなんだけど...。


私も皆に続いて本堂にあがると、豪華な装飾がされており圧巻だった。

長い座卓にはたくさんの菓子があり住民同士が談笑を始めていた。


私は知り合いも特にいないので、隅っこの方に座りお茶を飲んでいた。

すると住職が私の側に近寄り、声を掛けてきた。


「本日はお勤めご苦労様でした。学生さんですか?」


「はい、この近くの高校に通ってます」


「そうでしたか、女の子が来られるのは珍しいので気になりまして」


「あ、いえ男です...」


「おや、これは失礼を...。ずいぶんと可愛らしく...」


「いえ...大丈夫です」


足先から顔までじっとりと、舐めるかのような視線に少しゾッとする。


「どうも、最近ね、家出をされる学生さん多いようでしてね」

「どうですか、なにか悩み事などはありませんか?」


「あはは...僕は特に大丈夫です」


「そうですか...一応、こんなものもやっておりまして」


住職が見せてきたのはスマホの画面でWINEの連絡先登録画面だった。


「昔はお寺で色々悩み相談などをしていたわけですが、時代の流れですね」

「SNSなどでもお悩みをきいているんですよ...どうです、よろしければ」


そういえば、どこかで僧侶が悩み相談に応えてくれるサービスを聞いたことがある気がする。

でもこういうのって直接やりとりするものなのかな...

かといってこれ、断ったら絶対失礼だよね...うーん...


悩んだ挙句、私は連絡先を交換することにした。

住職はニコニコと笑みを浮かべ感謝を述べた。

その日はそれで寺での活動は終了となり、私は家に帰宅したのだった。


家に着き、寺での出来事をTVを見ている紅桜に話してみた。


「なんかさ、目つきが気持ち悪くてさぁ...」


「あらあら...我が君の美貌はまさに百花繚乱ひゃっかりょうらんが如く...」

「見惚れてしまうのも仕方なきことですが...坊主如きが拝謁はいえつするのは身の程をわきまえておらぬと存じます」

「ご命令とあらば、その坊主を仏の下へ送ります故...」


「そこまでしなくていいよ!?」


慌てる私を見て紅桜がクスクスと笑う。


「ですが、もしかするとその坊主...あやかしの類かも知れませぬ」

「古来より神職や仏門に変装し人を喰らうモノノケはございました」


「うーん...特に邪気とかは感じられなかったけど...」


「上位の妖怪...そのさらに格上たる存在は邪気を自在に隠しまする」

「我のような存在を仙妖せんようというのですが、十分お気を付けくださいませ」


「初めて知ったよそれ。じゃあ確かにその疑いはあるかもね...」


「我が君が邪気を扱う術を得たとはいっても仙妖は格が違います」

「御身が危機の時は必ず我をお呼びください。身命にかけお守りいたします故」


「うん、ありがとう。紅桜!」


私がそう言うと紅桜は微笑みTV鑑賞に戻っていった。

スマホがピロリン!と通知音を鳴らし、画面を確認してみると住職からであった。


【本日はお勤めいただきありがとうございました。】

【実はお話をしたいことがありまして連絡をさせていただきました^o^】

【よろしければ明日の昼過ぎに本堂にお越しいただけませんか?】

【きっとお悩みのことが解決するかと思います( ^^) _旦~~】


明日お寺に...?悩みって、もしかして私を取り巻く状況についてなのかな。

確かにお寺のお坊さんなら色々怪異のことなんかも今後相談できるかも...


私は伺います、と返事をした。

するとすぐに着信音が鳴った。


【ぜひおまちしております(*^_^*)】


文章に少し違和感を感じながらも、明日寺に行くことに決めたのだった―――

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