第10話 母みえこの四十九日 あきよしとこういちの関係は?

あきよしの妻あつこのお腹も目立ってきた3月末。

来週には母みえこの四十九日の法要が執り行われ閻魔様の審判7回目の判決で

極楽浄土へと旅立つとされる日の1週間前。

あきよしは妻と実家でやすおと夕飯を食べ寛いでいた。

玄関の開く音がし、あきよしはこういちが帰って来た気配を感じた。

未だに兄弟は会話もないままの状態で顔を合わすことも殆どなかった。

そんな兄のこういちがあきよしの前に座り

「すまなかった、あきよし。全部知ってたんだよな。母さんからの借金の事を」

突然謝られ、こういちがみえこに400万円ものお金を借りていたことを自分で告白した。

「これを四十九日の法要までに間に合わしたくて」

とこういちは包み紙をあきよしの前に置いた。

中を開けると4つの札束だった。

こういちは友人のひろとしと始めたカーショップで必要な資金400万円を生前母みえこに借りていたのだが何故ここで400万円なのかあきよしにはわからなかった。

「これはおれが母さんに借りて生きている間に返したかったけど間に合わなかった。それからもひろとしと仕事を頑張ってなんとか四十九日までに母さんへ返したかったんだ」

こういちは目を充血させながら告白した。

母の亡くなる前後もあきよしはこういちと顔を合わす機会がないと思っていたがそんな理由で仕事をしていたのだ。

こういちも母の死を悼み、考え、悩み、頑張り母を極楽浄土へ送ろうとしていたのだ。

(母さんはやっぱり僕たちの母さんだね、母さん・・・)

あきよしはこういちを見ようとしたがほとんど視界に入らない。

それでも

「アニキ・・・」

と言葉を発した時に自分が涙を流しているのだと気がついた。

あきよしは人目もはばからず泣いた。

母の死後、涙を流さない自分はどうかしてるのではないのかと思えたのがウソのように。

「母さん、アニキ、僕は、僕は」

涙が止まらなかった。

母の死を受け入れ、兄の頑張りを受け止め、父の母を思いやる心を知り。


1週間後の四十九日法要は晴天だった。兄弟の心を写すかのように。

あきよし、こういち兄弟、父やすおは祈った。

みえこが向こうへ行っても平穏無事で過ごせることを。






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(1月中旬に)

梨田兄弟の関係は悪くなっていった。お互いに不満を募らせ、口も利かなくなった。

母みえこはあきよしの妻あつこに対して次のように言った。


「私が死んだ後、3人が仲良くしてくれるように頼んでくれるかしら?」

「お義母さん、死ぬなんて言わないで」

「あなた 私だって何年生きてきたと思ってるの 自分の病気ぐらいわかるわよ」

そこであつこは言葉に詰まった

「そんなに困らないで 私はこういち、あきよしが今までのように仲良く過ごしてくれるのが何よりもの願いなの」

「お、お義母さん わかりました 何としても兄弟の仲を改善します」

「それも大事だけどお腹の子を大事にしてあげてね 予定日は4月6日よね」

「はい この子も生まれてきたら義父さんと義兄さん仲が悪いのを見せたくないので」

「私はそれまで生きてるかな」

「お義母さん、そんな事言わないで」

あつこは母の頼みを受け、告別式までの間、3人の関係を修復するために陰で尽力した。

何気なく夫に、そして義兄に兄弟仲の修復を促すようにしたが頑固な兄弟には届かなかった。

そして、母が亡くなった後も関係は修復されず、四十九日の法要のときに、兄弟は再び仲良くなった。

(お義母さん、私の力じゃなく兄弟の絆は繋がってました。お義母さんのお陰です)

みえこの極楽浄土への旅立ちの祈りと共にあつこは報告した。

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