第9話 母の葬儀、四十九日・・・塞ぐ心のあきよし

母の告別式から5日後、世間ではまだ春を待ちわびる3月朝にみえこの初七日が執り行われた。

やすおの意向で初七日、四十九日はきちんと法要をすると決めていた。

母の為に何度もお百度を踏んでいたとわかった父やすおとあきよしはお坊さんが来るまで談笑をしていた。

母が亡くなったとは言えこれからも生きていく者には日常が来るのだ。

悲しくても辛くても愛する者の死を乗り越えなければ明日へと繋がらないとあきよしは気がついた。

母みえこが亡くなり1番悲しいはずのあきよしは今まで1度も涙が流れることなく自問自答を繰り返し今の考えに至った。

4月には子供も生まれる。

母に見せたかったなとあきよしは思う。

仕事をしていても、ご飯を食べていても、眠りにつくときも母の事を考えていたがもちろん目の前に母が現れるはずもなかった。

遺影の中で満面の笑みを浮かべる母を何度も見た。

こういちが来て少ししてからお坊さんが来た。

相変わらずあきよしとこういちは目も合わせない。

初七日の法要後お坊さんとお茶を囲んだ。

「初七日は亡くなった方が閻魔様に7日ごとに7回されます。1回目の審判が初七日で7回目の判決の出る審判が四十九日となります」

と教えてくれた。

あきよしは亡くなってからも色んなルールがあるんだなと思った。

人は死にたくて死ぬんじゃない・・・

生きたいけど死ぬ時もある・・・

そう考えるとあきよしは悔しくて、やるせなくてたまらなくなった。

浮かない顔をしているとお坊さんが

「一切の生きとし生けるものは、幸せであれ

とブッダは言いました。

誰かが幸せだと、私も幸せ。

誰かがつらければ、私もつらい。

そんな心の持ち主だから、ブッダはいつでもすべてのいのちあるものの幸せを願っています」

さらに「あきよしさんの幸せを、梨田家みなさんの幸せをお母様は願っておられます。あきよしさんの奥様も貴方の幸せを願っておられるはずです。貴方が辛そうにしていればお母様も奥様も辛いはずです」

この言葉を聞きあきよしの心は少し軽くなった。


いつも応援してくれる誰かがいるって、いいものです。

あきよしは母の死後、縛られていた何かがほどけた気がした。

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