第5話 収まらぬ兄弟喧嘩 父はパチンコ三昧 母倒れる
正月のあきよしとこういちの喧嘩依頼二人は実家で顔を合わさなくなっていた。
あきよしはこういちへの怒りは静まったがやはり母からお金を借りている事実は許せなかった。
数年後にはハッピーマンデーと言って1月の第二月曜日が成人の日になる1月15日に母は倒れた。
一人で夕飯の買い物を済ませ、食材を袋から出したときに胃におあたりがキリキリと痛み出した。
座ってれば治まると椅子に座っていたみえこだが胃の突き上げる痛みが数分おきに襲ってくる。顔には脂汗を浮かべながらそのまま椅子から転げ落ちた・
パート帰りにあきよしの実家に寄ったあつこが幸運にも倒れた直後に発見したので救急車を呼ぶより早いと決めみえこを背負って病院まで急いだ。
あきよしが就業時間前にあつこからのメールを見て青ざめた。
母が倒れたと上司に報告し会社を出てタクシーを呼び止めた。
移動中に抗がん剤は効いて母の病状は快方に向かってたんじゃないのかよ
倒れるってなんだ 死ぬのか・・・
「いや、そんなことは考えないでおこう」
頭を整理しながらあつこのメールにあった病室へと向かった。
「あら、あきよしごめんね。母さん少し椅子で横になったら眠ってたみたい。あっちゃんが心配して病院に連れて来てくれたけど母さんは大丈夫よ」
「なんだよ。心配して急いで来たら普通にベッドに座ってるからびっくりだよ」
「ありがと」
父さんとアニキはと訊ねるあきよしにわたしからあっちゃんに知らせないでって頼んだのとみえこはつぶやいた。
「どうしてだよ母さん、なんでアニキと父さんにそんなに気を遣うんだよ」
少し声を荒げあきよしは母の方を見た。
母は俯き
「あの人たちにも都合があるのよ」
「ちがう ちがう ちがう 父さんはパチンコ三昧でアニキは母さんに借金までして仕事をしてる」
みえこが驚きと同時に落胆した時だった。
「あきよし、こういちのお金の事知ってたの?」
その言葉は無視して
「母さんからお金を借りてまでするカーショップなんて意味あんのかよ」
歯を食いしばりあきよしは母を見た。
「あきよし、母さんはお金を貸したんじゃないの。こういちの未来への投資をしたのよ。あなたが高校受験するときに第一志望の高校落っこちちゃったじゃない。その時ね父さんは私学はダメだ、レベルを下げて2次募集の公立高校へ行けって言って母さんと揉めてたのは知ってるでしょ。あの時も母さんねあきよしの私学へ行くのは先行投資だと考えたの。私立に来てる子って割と裕福な家庭の子が多いじゃない。だからその環境であきよしも学生生活を送れば中学の時のあきよしより優しくていい子に育つと考えたの」
事実、中学生活では勉強は出来ていてもあきよしの素行の悪さは目立った。
だが私立の高校へ行き、良い友達にも恵まれ、いい成績で卒業し、第一志望の公立大学へも行けた。
母に言われあきよしは返す言葉を無くした。
「だけど父さんは、父さんは母さんが入院中もあまり見舞いのも来ないでパチンコばっかりしてるじゃないか」
「あの人にはあの人の考えがあるのよ 母さん疲れたから寝るね。明日の退院もあっちゃんは仕事だしあきよしも心配しないで仕事してね。母さん一人で帰れるから」
あきよしには返す言葉もなくあつこと言葉少なで帰った。
次の日の夕方、あつこはパート帰りに母の様子を確かめに行くとエプロンをして父の好きなコロッケを作っていた。
「あっちゃんお疲れ様。今日は父さんがコロッケをリクエストしてくれたので頑張って沢山作ったの。あきよしにも持って帰って食べさせて」
揚げたての母の作るコロッケは肉屋さんでも敵わないとあきよしから独身時代から聞かされていて初めて食べた時のあつこも一瞬で虜にしたコロッケだった。
「お義母さん昨日の今日で大丈夫なんですか」
「昨日はほんとうに少し横になってただけよ。心配かけてごめんね」
あつこは揚げたてのコロッケを持って帰り帰宅したあきよしと味わった。
2日後に父やすおから電話が電話があり
「あきよし、仕事帰りに話があるけど何時だったら良い?」
夕方6時半にパチンコ店横の喫茶店で会うことになった。
この喫茶店は隣が神社と言うこともあり近隣の神社へお参りに来る客で昼間は賑わうのだが夜は空いていた。
「父さん、話しって何」
注文したホットコーヒーが届くと同時にあきよしは切り出した。
「母さんの事だけどな、一昨日倒れてあっちゃんが助けてくれただろ。次の日の退院するまえに医者に呼ばれて父さん話をしたんだ」
医者に話によるとガンが胃にも転移してるらしかった。
肺や肝臓には転移しやすいため注視してきた医者の話によると胃への転移は稀なケースで注視しきれてなかったとの事だった。
「また抗がん剤治療するの?」
「父さんはこのままで良いんじゃないかと医者と話をしたんだ。見えない所にも転移してる可能性もあるし、抗がん剤で体力も奪われていくしな」
あきよしもネットで悪性リンパ腫については色んなことを調べていた。
その中で確かに父の考えを書いてる記事もあった。
抗がん剤で辛い思いをし、歩けなくなるまで体力を奪われモルヒネで意識朦朧としたなかで死んでいく患者の話も少なからずあった。
だからと言って治療せず死にゆくのを見てるだけと言うのもあきよしの中では耐えられない。
「父さんの考えは話した。こういちも同意見だ。あきよしは帰ってあっちゃんと相談してくれ」
あきよしは帰り道で考え、あつこと相談し、風呂で悩み、眠れぬ夜を母の治療する、しないを天秤にかけて考え気がつくと夜も明け朝日が昇っていた。
「決めた」
あつこには答えを言わないままあきよしは出社した。
多忙な1日を過ごし、父と昨日と同じ喫茶店で待ち合わせた。
「父さんの考えに賛成するよ」
「そうか、あきよし寝ないで考えたのか?目の周りのクマが凄いぞ」
薄っすら涙目を浮かべあきよしは笑った。
喫茶店を出て別れ際にやすおは
「この事は母さんには内緒だぞ。母さんは辛い抗がん剤で治ったと思い込んでるんだ」
「わかった」
こうしてあきよしは自身の決断が正しかったのか正解のないまま家路についた。
今年の冬は暖冬だと天気予報で言っていただ凍えそうな寒さの1月末日にあきよしの実家に5人が集まった。
この日は母が病気でみんなに心配かけて一応は快気祝いと言うことで集まって夕飯を食べようとみんなの好きな手料理を振舞った。
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