第4話 あきよしとこういちの喧嘩 その時、父はパチンコ?

季節は日本中がクリスマスに浮かれる12月になっていた。

母みえこの身体も健康とまではいかなくても日常生活に支障が出ないのであきよしの妻あつこはカフェのパートに戻っていた。

カフェと言えば聞こえが良いが昭和時代から営業している純喫茶で名前にカフェが入れば21世紀向けになるとオーナーが名前を変更しただけの喫茶店だ。

あつこの仕事は4時までのパートタイムで4時前にこういちが入店し、続いて男性がもう一人入店した。

あつこは良くない予感がしたので調理場に入り身を潜め、あつこと入れ替わりの高校生のバイトが接客対応した。

どうやら2人は揉めている口調で200がどうの400だしたなどの話をしていた。

「わかったよ、何とか用意するよ」

とこういちが折れた形で話はまとまったようで2人はホットコーヒーに手をつけた。

あつこは夕飯の買い物と支度があるので喫茶店裏口から帰り夕飯時にあきよしに話した。

「そうか、前にもアニキと話したけど資金繰りが大変みたいだな」

このときまさかまたこういちが母にお金を借りるとは思ってもなかったので他人事の様にどんな仕事でも不景気の世の中は資金繰りが大変なんだぐらいに考えていた。

翌週の日曜日に母の様子を伺い夕飯でも一緒に食べようとあつこと一緒にあきよしは実家を訪れた。

日が傾きかけた頃に到着すると入れ違いでこういちとひろとしが出てきた。

二人はそそくさとひろとしの車で出発し、変だなと思いながら中に入るとみえこが急いできんちゃく袋を片付けた。

あきよしは直感で母にお金を借りに来たのだと分かった。

母を問い詰めるのも嫌なので明日、こういちと話をしようと決め、その夜は何事もなかったかのように父も含め4人で夕飯を楽しんだ。

次の日こういちのカーショップを訪れ母さんにお金を借りてるだろと問いただすとこういちはイライラした様子で言葉を濁した。

「しょうがないだろ。ひろとしが仕入れた車が売れないんだから。ここの家賃も要るし大変なんだよ」

開き直った様子で言うこういちに怒りを覚え

「それはアニキ達の問題だろ。母さんに金を借りるのはダメだよ」

「じゃーお前が貸してくれるか?」

「なんでだよ。アニキとひろとし君の店だろ。自分たちで工面すれば良いじゃないか」

「何にもわかってないくせに・・・ゴツ」

あきよしは頬に熱さを覚えこういちに殴られたのだ遅れて気がついた。

あきよしはもうこの男とは話にならないとこの場を辞去した。

営業周りでと会社には告げて出てきたので腫れた頬で帰社しないで自宅に直帰出来るのが幸いだった。

コンビニで買ったアイスクリームで12月の寒さの中頬を冷やし家に帰ると

「どうしたの?まさか義兄さんが?」

「もうあいつとは兄弟でも何でもない。抗がん剤治療で頑張った母さんから金を借りるなんて最低だ」

あつこは腫れた頬を冷やす氷を準備し手渡した。

兄弟の仲が悪いまま新年を迎えた。

世間では21世紀だと騒いでいたがあきよしの気分は母の悪性リンパ腫発覚から晴れないままだった。

新年のあいさつにと実家をあきよし夫妻は訪れたがみえこ一人で兄も父も不在だった。

あきよしとこういちの一件は両親の耳には入れてないが実家で数回顔を合わせたが一言も言葉を交わさず目も合わていない。

父は多分パチンコだ。

あきよしとあつこはみえこの作ったおせちを3人で食べた。

みえこの作る黒豆があきよしは幼いころから大好物だった。

「今年の黒豆はあっちゃんも手伝ってくれたのよ」

「お義母さんの作り方を見てただけですよ」

2人はあきよしが黒豆をおいしそうにつまむのを見て満足気だった。

そろそろ帰ろうかと時計を見た瞬間、父が帰ってきた。

手には袋いっぱいのお菓子だ。

「正月はパチンコは出ないって言うけど今日は大当たりだ。パチンコ屋からお年玉を貰ったみたいだよ」

上機嫌に話す父を見て

「母さんの事をもっと考えろよおやじ」

「良いのよあきよし」

「なんだあきよし、父さんに仕事以外どこにも行くなって言ってるのか」

やすおの持っていた大量のお菓子が散乱し二人は取っ組み合った。

その場はみえこの一喝で収まったがあきよしは

母さんはなんでおやじとアニキにもっとしっかりしろと言わないんだよと不服だったがあつこの一言で我に返った。

「義父さんも義兄さんもあなたが知らない所でお義母さんに気を使ってるのよ。玄関を上がった所に年末にお義父さんが手すりを付けてくれてお義母さんは家に入りやすくなったし、義兄さんは片付けや掃除を手伝ったりしてるのよ」

頭の中は怒りでいっぱいだったがあきよしは少しだけ冷静になれた。

そもそも憎むのは兄でも父でもなく母の病気なのだ。

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