第3話 母の抗がん剤治療 兄の借金
母みえこの抗がん剤治療3クールは前日で終了した。
2クールの時の母の弱り方をあきよし夫妻は目の当たりにし、苦しそうなみえこをただただ見守るしかなかった。
経過観察の2日が過ぎ、少しだけ動けるようになったみえこを父のやすおが自宅へ連れ帰ったのだがやすおは母の食事も用意せずに仕事の後は母の弁当を買って一旦自宅へ戻り自分は食事も取らずパチンコへ行き、兄のこういちは仕事もせずに友人とカーショップを開くと言って数週間前から準備をしていた。
帰りも日付が変わった12時を過ぎることが当たり前の日々だった。
あきよしは妻のあつこが母の看病をしてくれていることに父と兄は頼り過ぎていないかと憤慨していた。
3クールの抗がん剤治療も終了し、2日間の経過観察後の退院時はあきよしは有休を取りあつこと一緒に母の退院を祝った。
「母さん、良く頑張ったね。今日からは家でゆっくり過ごして」
「お義母さんはゆっくり体力の回復をしてください。家の事は私がフォローします」
この言葉にみえこは目を潤ませながら
「ありがとうね」
と感謝していた。
「ところでおやじとあにきは?」
「父さんは今日も仕事が遅くまであるそうだよ。こういちは今が一番いそがしいもんね」
と父は毎日仕事が遅いと思い込んでいた。
あきよしは数日前に営業の仕事中にこういちを見かけていた。
カーショップを一緒にする予定だと言う友人と事務所の場所を探していると言いながら遊び歩いているのだ。
友人と言うのがあきよしの住む界隈では有名な資産家の息子のひろとしだった。
ひろとしはカーショップを一緒にしようと持ち掛けたが自分では何も出来ないおぼっちゃま。
そんなおぼっちゃまと車探し、事務所探しの名目と言いながらこういちもひろとしと遊んでいる風にしか見えなかった。
先週の日曜日に母の見舞いも兼ねて実家に行きあきよしは2人にそれとなく母の看病をあつこに頼るのではなく家族で頑張ろうよと行ってみたが2人は
「母さんは抗がん剤を打ってもピンピンしていて通常と変わらないそうだぞ」
と2人に心配をかけまいと振舞っている母の言葉を父は信じ込んでいた。
抗がん剤の副作用で毛も抜け落ちニット帽を被り甲斐甲斐しく動く母を見て父と兄は健康だと思い込んでいた。
「だけど母さんに頼るばかりじゃ母さんの負担が減らないだろ」
2人に自分の事はもっと自分で率先してしろよと言う意味を込めて諭すように言うあきよしの言葉にも父と兄は呑気なものだった。
こういちは2人が許せなくなっていった。
母さんがあんなに頑張っているのに一緒に住んでいる2人は辛さにも気づかない鈍感さ
自分の妻のあつこのみえこを看病する姿を知らない2人の鈍感さ
僕はこの人たちとは話が通じないんだとあきらめた瞬間だった。
自宅で過ごすみえこは快適そうだった。
抗がん剤の副作用も体力の落ち込みもあるが朝から夕方まではあつこのサポートも必要だったが順調に過ごしていた。
退院から40日ほどが過ぎたころこういちと友人のひろとしで共同経営するカーショップも場所が決まり開店準備に追われているとあきよしは仕事帰りに実家に寄ったところで母に聞かされた。
「あにきは開店資金用意できるの?」
「ひろとしくんと一緒だから大丈夫じゃない?母さんは何も聞いてないから知らないけどひろとしくんの後ろ盾があればあの子は車のセールスを頑張れば良いんじゃないの?」
この時、あきよしはこういちが開店資金、共同出資でお互いが500万円づつ出し合ってカーショップの開店をする事をはじめて知った。
帰りの道中であきよしはあつこに母の様子とこういちの様子をそれとなく尋ねた。あきよしの予想通りで母は髪の毛は抜けて寂しいものの、身体は元気に動いているらしかった。
最近の2週間ほどはこういちが昼間にちょこちょこ母に話がある様子で自室で何やら話し込んでいるそうだった。
二人の会話で100万は用意出来たけど残りの400万が足らないんだ。
貸してほしいと聞こえたように思うとあつこは言った。
あつこの性格上はこれ以上聞いてもわからないしスパイの真似はさせたくないのであきよしは話を夕飯の話題へと変えた。
寝る前にあきよしはカーショップを開くのに総額1000万近くかかることは分かっていたがこういちの友人が全額出すものだと思っていた。
その辺の話もあるのでゆっくりこういちと話をする事にしてその日は眠りについた。
数日後、営業でこういちのカーショップ予定地の近くまで来ていたので訪ねるとこういち一人だけでパソコンに向かって中古車を見ていた。
「ここは良い場所だなあにき」
あきよしは事務所に入るとこういちに自販で買ってきた缶コーヒーを差し出した。
「あきよしか。今車の仕入れのリサーチ中だったんだよ。コーヒーありがとう」
お互いの近況報告、雑談など30分ほど話、こういちの携帯電話が呼び出した。
「はい、えっ!あと200は無理だろ~うん、考えとく」
こういちが神妙な面持ちで
「はぁ~あと200万・・・」
「あにき、どうしたの?」
「ひろとしからの電話で良い出物のメルセデスがあっんだたけど購入資金が足らないんだってさ」
「ひろとし君の家ってお金持ちじゃなかったの?」
「それは昔のはなし。不動産投資の失敗で今はひろとしの両親も大変みたいだ」
「だからひろとし君も仕事を頑張ってるんだね」
頑張るひろとしには言えないがおぼっちゃま育ちのひろとしは車の仕入れ交渉、目利きがまだまだだとこういちは考えていた。
「で、200万は車の仕入れ?」
「そうだけどあいつの仕入れで俺も心配なんだよな。200万足らないんだったら200万値切るぐらい出来ないのかよ」
「ハハハ、それは無理だろ」
二人は笑った。
結局この日はこういちが母から400万円借りた話は本当か確認出来ずにあきよしは仕事に戻った。
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