第8話 続 遠い国の返事 中 手づかみの夕食

浜辺につくとメールボトル19をしっかり抱いて、ニャーモさんはホテルに向かって走りました。フロントに行ってボートの事を話しました。

「ボートなんてどうでもいいです。あなたが無事に帰ってこられて良かったです。みんな心配していて、大きな船を出そうかと相談していたところでした。すぐにお食事を運びますね。」

みんなにこにこ笑顔でニャーモさんの無事を喜んでくれました。

 コテージに戻るとニャーモさんはすぐシャワーを浴びました。まだ水着のままで、もちろん寒くはなかったのですが汗でべとべとの体でした。さっぱりしたニャーモさんはボトルさんの中から手紙さんとキリエさんを取り出すとテーブルの上に置き、ボトルさんを真水で洗いました。そしてそれぞれをテーブルの上に並べました。


すぐに夕食が運ばれてきました。ニャーモさんはすっかり忘れていたけれどおなかがぺこぺこでした。ところが、ナイフもフォークもスプーンも持てないのです。手がぶるぶる震えています。長い時間ボートをこぎ続けて居たからでしょう。

「ああ、だめだわ。持てない・・・仕方が無い。」

ニャーモさんは食べ物を手でつかんで食べ始めました。

 そんな様子を見ていたメールボトル19はとても心配しました。

 「キリエちゃん、あれ見える?」

「うん、インドネシア語とその下は英語で書いてあるね。」

「マッサージ、1時間コース、2時間コース。ご用の方は、この電話番号にかけてください。」

「これいいかもしれない。ねえねえ、ニャーモさんマッサージ頼むといいよ。」

ニャーモさんもその張り紙を見て、確かにこの手では困るしと考え、二時間コースのマッサージを二人お願いしますと電話をかけました。


すぐに若い女の人が二人やってきました。ニャーモさんはベッドに横になってマッサージを受け始めました。

「おお、あなた、かちかちね、手もかちかち、腕も足も背中もかちかち、痛いね。かわいそう。大丈夫、私たちマッサージ、とても上手。明日、全部治る。安心よ。」

二人はニャーモさんの体を丁寧にもみほぐしながら片言の英語で言いました。ニャーモさんはとても気持ち良さそうにしています。

 その間に手紙さんとキリエさんは、ニャーモさんとはぐれてしまった後の事をお話しました。珍しく手紙さんも興奮してキリエさんと競うようにお話しました。ニャーモさんは時々うんうんとうなずいて聞いていましたが、話を聞いているうちに涙が出てきました。 手紙さんとキリエさんはフィンランド語で話したので、マッサージさんたちには分かりません。ニャーモさんが一人でしゃべって泣き出したと思いました。

「おきゃくさん、いたい?とても つらいか?すぐ、かちかちが やわらかくなる、もうすこし がまん、いたくても 泣かないで。」

と、優しかったのです。

 二時間しっかりもみほぐしてくれて帰るとき、ニャーモさんは二人に二倍の金額を支払いました。二人はとても喜びました。ニャーモさんは思ったのです。こんなに頑張って私をマッサージしてくれたのに、インドネシアの賃金は安すぎる、と。


すっかり気持ちの良くなったニャーモさんは言いました。

「今日は大変な一日だったけど、私、バリ島嫌いじゃないわ。ここはやっぱり良い処よ。」 ニャーモさんもメールボトル19も眠りにつきました。みんな夢を見ました。

 ニャーモさんの夢は、シーラカンスの背中にメールボトル19が乗っかって。海の上を飛んでいる夢でした。

手紙さんの夢は大きな難破船の周りに沢山の人が立っていて、みんなで、こっちにおいで、と歌っている夢でした。

 キリエさんの夢はエイヤさんと地中海を泳いでいる夢でした・・・・・・・・・

 

           中 終わり

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続 遠い国の返事 第三部 完結編 中 @Kyomini

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