第3話 続 遠い国の返事 中 メールボトル19

楽しく泳いでいると突然、何かにひっかかってニャーモさんの腕とボトルさんの首に結ばれていた紐が、真ん中から切れてしまったのです!

「あああっ!大変、ボトルさん、こっちに、ニャーモの方に流れて!」

ニャーモさんは大きな声でそう叫ぶと、自分もボトルさんをつかまえようと必死で泳ぎました。けれど、ボトルさんは波に流されてどんどん沖に向かって流れていきます。

「ニャーモさぁん!ニャーモさぁん!!助けて!!」

手紙さんとキリエさんが必死に叫んでいます。ニャーモさんも力の限り泳いでいますが、海流の早さにはとうてい追いつけません。みるみるうちにメールボトル19は遠ざかって行き、やがてニャーモさんには見えなくなってしまいました。


「ど、どうしたらいいの??あの子たちはどこへ行ってしまうの?あの子たちともう会えなくなるなんて・・そんなこと、絶対に嫌。どうしたらいいの!」

ニャーモさんの目から涙がいっぱいあふれて来ました。しかし、あまり泳ぎの上手では無いニャーモさんは、もうそれ以上泳ぎ続けることができなくなってきていました。浜辺に向かって最後の力を振り絞って泳ぎました。海から上がると走ってホテルに行き、手こぎの小さなボートを貸してくださいと頼みました。ホテルのスタッフは手こぎのボートを貸してくれて浜辺に置きました。ニャーモさんはそれに乗り込むと、両手で櫂をこぎ始めました。

「私はモーターサイクルに乗って体力はあるわ。泳ぎが下手なだけ。ボートはこげる。」 確かに上手に櫂を操って、ほどなく紐の切れた処まで来ました。


「ここから、あの子達は北東に向かって流れて行ったのだわ。」

ニャーモさんはボートを北東に向けると、メールボトル19を大声で呼びながらこぎ続けました。

「私が悪いのだわ。浮かれてしまって泳ぐなんて言わなければ良かったのに。こんなことになるなんて。明日サムハさんに会わせてあげようと・・・キリエさんだってボトルさんだってどんなに楽しみにしていたか・・・・・・・・いえ・・・このまま二度と会えなかったら・・・私は、私は・・・あの子達の居ない生活なんて考えられない!ああ、誰か助けて。メールボトル19を私に返して!!」

ニャーモさんはボートをこぎながら、泣きながら、胸が張り裂けそうになるぐらい辛い暗い気持ちになっていました。

ニャーモさんは嫌な考えを吹き飛ばすかのように強く頭を振りました。


「だめ、めそめそしていたら。考えるのよ。考える。」

ニャーモさんは太陽の傾きを見ました。

「まだ日が暮れるまでに3時間ある。日が暮れてしまったらライトもないこのボートでは、私が浜辺にたどりつけなくなってしまう。あと1時間半、この辺りを動いてメールボトル19を探そう。どうしても見つからなくても、私は浜辺に向かってホテルに帰ろう。

 明日の朝、スラバヤまで飛行機で飛んでサムハさんに会う。彼女は手紙で言っていた。海洋生物の研究をする為の船があって、ダイバーもいる。海の中にも潜れると・・・

 サムハさんにお願いして、その船を出してもらってダイバーの人にもお願いしよう。そうすればきっと見つかる。絶対見つかる。」

泣くことをやめたニャーモさんは、歯を食いしばってボートをこぎ続けました。

けれど1時間半経ってもニャーモさんは引き返すことができません。2時間経っても引き返せないのです。2時間半になろうとしています。太陽は今にも沈みそうになって来ました。

 

:::::::::

ニャーモさんと離ればなれになってしまったメールボトル19は、どうにかしてニャーモさんの処へ戻ろうと懸命に努力していました。ボトルさんは何度も方向を変えてそちらに向かおうとしましたが、波に押し流されてしまいます。どんなにしてもニャーモさんと離ればなれになった場所に戻れないのです。

 キリエさんはおいおいと泣き続けました。もうニャーモさんとは会えない。明日会えると思っていたサムハさんとも会えない。こんな辛いことが起こるなんて・・・・キリエさんはただただ泣きじゃくっていました。

「キリエちゃん、しっかりして。泣いていても何も始まらないのよ。私たちは今はもうニャーモさんに会えないかもしれないけれど、でも絶対、何日かかっても、何ヶ月かかっても必ずニャーモさんの処に帰る。」

手紙さんはきっぱりと言いました。


「いい、私たちは『手紙』なのよ、思い出して。私には宮子さんの名前と住所が書いてある。宮子さんは新しいお家に引っ越してこの住所にはいないでしょうけど、知り合いの人があのお家を買ってくれたと言っていたわ。だったらその人が宮子さんに連絡してくれるはずよ。

 そしてキリエちゃん、あなたにはニャーモさんの名前と住所が書いてあるのよ!

 思い出して。私たちは『メールボトル』なのよ。このままどこかに流れて行って、どこかの浜辺にたどり着いて誰かに拾われる。その人に言うの、お願いするの。私たちに書かれている住所にお手紙を書いてと。

 どれぐらいの時間がかかるか分からない。何ヶ月もかかるかもしれない。だけど絶対絶対、私たちはニャーモさんのお家に帰るのよ。帰れるはずよ。」

手紙さんの力強い言葉にキリエさんは泣き止み、ボトルさんもしっかりと一回傾きました。


「手紙姉ちゃんの言う通りだわ。私は泣いてばかりで何も考えなかった。ごめんなさい。このボトルさんは特別でとっても強いって分かったし・・熱いこの海でも北極海の氷の海でも大丈夫。だったら私達ボトルさんを信じて任せて、前のように漂ったらいいのね。」 「そうよ!私たちメールボトル19だもの!」

ボトルさんも『まかせて、大丈夫』と言うように一回しっかりと傾きました。

「ここはまだとても熱いところだから、赤道の付近ね。北に向かって北太平洋に入ろう。私たち、いろんなお魚さん達から、海の中で何が危ないかも聞いたし、安全に進んで行けるわ。」

キリエさんもすっかり元気を取り戻しました。


「そうだ!手紙姉ちゃん、北太平洋に入ったら、くじらさんに交信してみようよ。シロナガスクジラのおじいちゃんがやったように、近くにいるくじらさんに交信して、つないでつないでPHR07さんに知らせてもらうの。」

「それもいい方法だね。すごく長い旅になるけどオランダの沖、北海まで行けばPHR07さんにきっと会える。きっと私たちをどこかいい場所に連れて行ってくれるわ。」

覚悟を決めた手紙さんとキリエさんとボトルさんは、『メールボトル19』としての誇りを取り戻していました。

どんな時も弱気になってはいけないのです。大丈夫と強い気持ちでいたら、良いことも自然とやってくるものです。

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