第23話 告白

 散歩から帰り、離れの小屋にいる真奈美の様子を見に行った。真奈美は大量の段ボールに囲まれて、陶芸用品を片付けていた。


「真奈美、あのさ……」


「あ、楓。おかえり」


 真奈美は一瞬オレの方に目を向けてまた作業を続ける。


「あのね、オレ、今、就職活動で苦戦してるじゃない?」


「うん」


 就活は行き詰まっている上に最近はやる気も起きない。でも、働くのが向いてないから働かないなんて言い訳は通用しないし。


 もう『詰み』だ。


 ディスレクシアのことを真奈美に言わないといけないと思った。仕事が見つからない理由を全部これのせいにするのは違うと思う。でも、就活につまづいている事実は、ディスレクシアのこと抜きでは語れないのだ。


 自分の気持ちを一旦整理するためにも、真奈美に聞いてもらいたかった。だから、言うことにした。


「就活苦戦の理由がね、オレのちょっとした障害が関係してるかもしれないんだ」


「えっ? 障害って?」


 真奈美は案の定、障害という少し不穏な言葉に反応してきた。


「ディスレクシアって知ってる?」


「聞いたことない。何なの?」


 やっぱり、知らないんだ。あまり知られている障害ではないもんな。最近は海外の著名人がこの障害を持っていたっていう話も聞くようになったけれど。


 例えば、トム・クルーズやアメリカ大統領のブッシュ、アインシュタインなんかもこれだったらしい。それだけ聞いたら、なんだ天才の障害じゃん?ってむしろ安心できたりもするだろう。


 でも、天才じゃない凡人のオレにとっては、例えば先日の研修での契約書音読事件みたいな事態を引き起こす元凶でしかないのだ。


 真奈美にもこの障害についてかいつまんで簡単に説明した。


「オレ、そのディスレクシアなんだって。小学生の時、診断ついてる」


 オレは大したことがないようなそぶりでそう言った。内心緊張して心臓がバクバクいってる。オレにとっては最大で最凶の弱点でコンプレックスだから。


「やっぱり、楓は天才だったんだねぇ」

真奈美があっけらかんとした調子でそう返してきた。


「は?」


 確かに例としてトム・クルーズの話もしたけど、今そういう文脈で話したわけでは断じてないのだが……


「だって、楓のミュージシャンとしての才能、すごいもん。名曲いっぱい生み出してきたもんね。私はデビュー当時からずっと応援していたんだから」


 真奈美は愛情たっぷりの眼差しでオレを褒め称えてくれた。嬉しいけどさぁ……確かにミュージシャンの資質として、耳から聴けば歌詞やメロディーをすぐに覚えられるという部分は、オレのディスレクシア特性のプラスの部分だったと思うけど。今はもう音楽活動はやめたんだってば……


「真奈美、ありがとう。でも今はそういうんじゃなくて……」


「分かってるって。いつも自信満々の楓があまりにも自信失ってるから、ちょっと元気になってもらいたくて」


 なんて、優しいんだ……


「障害とは思っていなかったけど、何となくわかってたよ。字を読んだり書いたりが苦手なんだなーって」


「えっ? 分かってたの?」


 ちょっと拍子抜けした。オレの字が異様に汚くて読めないレベルなこととか、活字をほとんど読まないことなどはバレていたみたいだった。







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