第24話 不完全

「楓、その読字どくじ障害があって、これまで大変だったでしょう」


「うん。まあね。勉強は全くダメだったし、契約書も読めなくて騙されたり、歌詞カード見ながら歌えなかったり……色々あったかな」 


 これまでの失敗の数々、塗り替えられ更新され続ける黒歴史は涙なしでは語れない。直近ではあの契約書音読事件だ。次から次へと失敗が起きるもんだから、起きたそばから笑い飛ばして忘れていかないと間に合わないのだ。絶賛現在進行中なのである。


「大変だったね。もっと早く言ってくれたら良かったのに」


「真奈美は、オレのこんなダメなところ知って嫌にならないの?」


 真奈美はしばらく考えるような間を置いた後、何か思い付いたようで、いたずらっ子のような笑みを浮かべてボソリと言った。


「ミステイカーズだね」


 久しぶりに聞く単語だった。


「え? それ、どういうこと?」


「自分のバンド名の意味、忘れちゃったの?」


「いや、覚えてるけどさ」


『失敗する人』だ。その意味は……


「「人間は不完全でいいんだ!」」


 二人の声が揃って、僕たちは目を見合わせて笑った。


 あの時は全く思ってもいなかったけれど、『失敗する人』ってまさにオレのことじゃないか。


 人間はみんな不完全だけど、出来ないところは助け合えばいいと、あの時のオレも痛切に感じていたことを思い出した。


「楓。これからは細かい文章を読まないといけない時、遠慮なく言ってね。私、活字中毒だから」


 たしかに、真奈美はいつ見ても暇なときは本を読んでいた。凸凹パズルのピースが上手いことハマるものだと感心してしまう。

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