第25話 新たな夢

「ねぇ、見て。これ、懐かしいよね」


 真奈美は引き続き陶芸用品の段ボールを整理しながら言った。真奈美の手にあるのは、オレが絵付けした、月と太陽の茶飲み茶碗だ。


「おー。これね。懐かしいかな? 教室にずっと飾っててくれたからいつも目についていたような」


「この茶飲み茶碗は楓が絵付けしてくれたから、私の一番のお気に入りで宝物なんだ」


 真奈美はその茶飲み茶碗を大事そうに両手で支えながら言った。


「何を大袈裟な……」 


 オレは思わず笑ってしまった。プロの陶器にオレなんかが絵を描いていいものかと恐縮しながら描いたというのに。お互いの想いがだいぶズレていた。


「ねぇ、楓。これを仕事にしたらどうかな?」


 真奈美は真剣な表情で、尚且なおかつ素晴らしい思いつきをしたという調子で楽しそうに言った。


「えっ? どれを仕事にするって?」


「陶器の絵付けだよ。私の作った陶器に楓が絵を描いて販売するの、いいアイデアじゃない?」


 オレの頭の中に一瞬、光がパァっと輝いたような気がした。楽しそうだし、やってみたいかも。


「それ、いいね!!」


 オレはノリ良く真奈美の調子に合わせた。絵を描くのは昔から大好きだったし、得意分野でもあったから。


 でも、ちょっと待てよ。よく考えると現実的ではないような気もする……


「……でも、オレは絵の勉強とかしたことないし、完全なド素人だよ」


 そんな夢みたいなことが仕事になったら誰も苦労しないだろう。


「楓なら、大丈夫だよ。だってこの絵、すごく素敵だもの」


 真奈美は前向きだなぁ。そりゃあ真奈美にとっては良く見えるかもしれないけど。


「うーーーん。とりあえず、試してみるかな?」


 今の僕は無職だし、時間だけはたっぷりある。やってみたいことにチャレンジ出来るチャンスかもしれない。


 それに、オレはもともと、そんなに常識的な人間じゃないんだ。むしろやりたいことしかやってこなかった方だ。


 目の前に楽しそうなことが見つかったのだから、流れに身を任せて、試してみない手はない。


 新たな夢が生まれた瞬間だった。










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