第2話 同居

 オレの名前は、古瀬楓ふるせかえで。三十六歳。元ミュージシャン。現在無職。さっきから車内で流れている『晴れのち曇り時々雨』という歌はオレの作詞・作曲で、ずいぶん前に歌ったものだった。


 自分の歌を聴くなんて、ナルシストだなって思ったキミ、正解だ。オレは結構自分の曲を聴くのが好きなんだ。だって、自分が最高にいいと思うもの、自分が聴きたいと思うものを作ったんだから。


 かと言っても、流石さすがに一日中聴いていたいとまでは思っていない。もうお腹いっぱいだ。しかし他ならぬ真奈美のリクエストだから、最後まで付き合ってやるとしようかな。


 奥さんの真奈美は、オレの四歳下で現在、三十二歳。陶芸教室をやっていたが、このたびの事情により、教室は先月末で締めて今ここにいる。


 そろそろ目的地に到着する予定だった。窓の外の景色はどこまで行っても緑豊かな大自然が続いている。田舎は嫌いじゃない。オレ自身も、もともと北海道のど田舎で生まれ育ったから、案外すぐに肌に馴染むだろう。


 オレ達がこれから住む場所は地方都市と呼ばれるような、ある程度便利でスーパーや病院などの施設もきちんとある地域だ。これまで楽で便利な都会に慣れ切っているので、真奈美の実家が程よく都会で良かったと思う。


「楓。本当にうちの両親と同居でいいの?」


「え、今それを? もう引っ越しの荷物実家に届いてるって」


「そうだけど。やっぱり同居だなんて、楓が気を遣っちゃうと思うからさ。実家の近くに賃貸で住んでもいいんだからね」


「ありがとう。じゃあさ、一旦は真奈美んちに住ませてもらって、ダメそうならそれから物件探すよ」


 そんなに気にしなくてもいいのにな。真奈美は心配症だなーと思う。上京するまで三世代の大家族でつちかってきた、オレの適応力とコミュりょくは健在なハズだから、きっと大丈夫だと思う。


 しかし、結婚四年目にしてマスオさん状態になろうとは、人生何が起こるかわからないものだな。

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