第3話 実家

 真奈美の実家に到着した。駐車できる敷地が広すぎて、逆にどこに駐車したらいいのかわからないぐらいだ。余裕の前向き駐車を決めたら、真奈美に笑いながら注意された。もう少し端に寄せたほうがいいのか。


 立派な門構えの日本家屋を見上げた。都会では考えられないぐらいの土地を贅沢に使っただだっ広い平屋である。オレの実家も北海道の田舎で似たようなものだけどさ。なんだか懐かしい感じがする。


『これからどうぞよろしくお願いします』

と、一応、心の中で家に挨拶をした。


 道を挟んだ先にある広大な実家の畑が目に入った。オレは一ヵ月後、ここを耕してるかもしれないな。


「ねぇ、この服おかしくないかな?」


 車を降りたら途端に緊張してきた。カーキ色のチノパンに白地のワンポイントのある長袖Tシャツを改めて確認した。


 昔、若気の至りで入れた腕のタトゥーが見えないように、暑いのに長袖を着て腕まくりしている。まぁ、そのうちバレちゃうと思うけど。最初ぐらい好印象こういんしょうでいきたいのだ。


「どうしたの? 楓、緊張してるの?」

「うん。少しだけ」


 ご両親は大事な一人娘を預けてくれたけど、あまり理想的な夫じゃないと思うから、ちょっと合わせる顔がないというのが正直なところだった。昨日金髪だった髪も黒く染めたんだ。少しは真面目で誠実そうに見えるといい。繰り返しになるけど、やっぱり最初ぐらいはよく見せたいのだ。


「あらあら楓くん。遠いところようこそいらっしゃったわねー。疲れたでしょう。もう、荷物届いてるわよー。さあ、上がってね」


 お義母かあさんはオレの心配をよそに、大歓迎してくれた。広い玄関に上がった後、振り返ってかがんだ姿勢での三和土たたきに置いた靴を揃えた。


「お邪魔します」


 髪の毛を一つに束ねて、おしゃれなマゼンダ色のエプロン着た真奈美のお義母さんがにこにこと笑顔で出迎えてくれた。


 お義母さんは、今五十五歳だと聞いているけどもっと若く見えるかも。とても温かくて感じの良い人だった。同居でも大丈夫かも、と思えたのはこのお義母さんだからだと思う。


「おっ、楓くん。久しぶり。元気そうだな」


 続いて、お義父とうさん登場。お義父さんも気さくで良い人だ。オレはあまりお酒が強くないのに、いつもやたらと酒を勧めてきて、潰されるのがちょっとイヤだけど。


 真奈美とこの人達とこの場所でやって行こう、と決意を新たにしながら、居間に続く渡り廊下を歩いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る