第4話 一つ目の理由

 オレ達が島根に移住しようと思ったのには二つ理由があった。


 一つ目の原因はオレかな。めちゃくちゃ単刀直入に言ってしまうと、経済的理由です。正直なところ経済的に結構苦しかった。


 直近の俺の音楽活動は、主に定期的にやるソロライブ、ホームページや現地でのグッズ販売、口コミやSNSを使った集客という感じだろうか。昔からのファンの方もいて、とてもありがたかった。しかし、コツコツやっていたけれど、広げていくのが難しかった。


 そんな中でも、新曲も時々作ったりした。経費の関係で昔みたいにレコーディングなんて出来なかったので、たいした録音設備もないけれど、手作り感満載のCDも販売したりした。


 昔のツテで音楽関係のサポートの仕事が時々入ることもあった。でも、それも波があるからアテにはできなかった。


 しょうがないので、空いている時間に引っ越し屋とかガソリンスタンドの単発バイトも併用して、何とか収入アップを図っていた。


 まぁ、そんな感じだったので、あとはご想像にお任せします。


 真奈美はそんなオレを責めるどころか「楓の好きな音楽をやっていいよ」と応援してくれていた。オレにとってほとんど女神だ。


 さらにぶっちゃけて公開すると、我が家の家計のメイン収入は奥さんの陶芸関係の収入だった。真奈美は有名な先生に弟子入りしていた陶芸家で作品もぼちぼち売れていたし、近所のスペースを借りて、陶芸教室をやっていた。この陶芸教室の方がなかなか繁盛していたのだ。


 オレも陶芸教室をよく手伝っていた。事務処理はからきしダメだったけれど、自分の手を使ってモノを作るのは好きだったし、子ども達の相手をしたり、おばちゃん達……じゃなかった……お姉さま方の相手をするのも楽しかった。自分で言うのもナンだけど、子どもやお姉さま方になかなか人気があったのだ。


 オレは絵を描くのも好きだったから、たまーに、奥さんの作った陶芸作品に絵付けさせてもらった。プロの陶器にオレなんかが描いちゃっていいのかなと思ったけれど、なかなかいい味を出していたと自画自賛しておく。


 あの時もまた調子に乗って「オレの絵、上手じゃない?」「これ、絶対売れるよね?」と教室の生徒さんに言い回っていたな。


 その作品とは、

『月と太陽の茶飲み茶碗』


 あの時絵付けした作品が、陶芸教室の目立つところにずっと飾ってもらっていたことを密かに嬉しく思っていた。


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