第10話 不妊

 不妊とは妊娠を望んで行為をしているにも関わらず、一年以上妊娠しないことを指すらしい。


 オレ達は現在結婚四年目で、この定義によると、オレ達は不妊夫婦という訳である。 


 オレは子どもが大好きで、結婚当初から子どもが欲しいと言っていた。口ではそう言っていたけれど、焦りや危機感は皆無で、そのうちできるだろうと気楽に構えていた。


 真奈美は思い悩んでいたのだろうか。わざわざ産婦人科に行く、ということはそういうことなんだろう。真奈美が悩んでいるなんて、オレは露程も思っていなかった。


 真奈美は年下だけど、すごくしっかりしていて、自立した女性だ。陶芸家として独立して活動しているし、陶芸教室だって一人で運営、管理、指導と軌道に乗せている。


 しっかり自分を持っている彼女とだからこそ、お互いの自由を尊重し合えるパートナーでいられるんじゃないかと思っていた。


 それに真奈美はいつも応援してくれていた。


『楓は好きなことしてていいよ』

『楓が自由に音楽やってるのを見たいから』

『音楽やってる楓が好きだから』


 ……なんて、言ってくれるんだ。オレの奥さんにしてはちょっと出来過ぎなんじゃないかとも思う。


 オレは真奈美の言葉をそのまま真に受けて甘えていたけれど、よく考えるとただのヒモになってた?

大黒柱は真奈美だし。今まで考えたことなかったことに気が付いてしまった。


 オレの音楽活動をこんなに応援してくれていたのは、真奈美が元ファンだったということもあるだろう。真奈美は結婚する前、オレのライブにかなりの頻度で来てくれていた。


 でも、結婚した後は、何だか見られるのが気恥ずかしくなって、オレは真奈美に「来なくていい」と言った。


 真奈美はオレの言葉通り、ライブを見に来る頻度を減らした。その事に関しても今まで考えたことがなかったけれど、もしかして無神経で酷い言葉だったかもしれないな。


 考えなしで、自分勝手で、子どもみたいなオレ。

そんなオレを許してくれる真奈美。


 沢山我慢させていたのかもしれない、と今更ながら思った。


 進行性の難病で子どもができないと宣告されて、オレだってかなりショックを受けているけど、真奈美はオレよりもっとずっとショックを受けているに違いない。


 だから、今度はオレが真奈美を支えよう。




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