第21話 仕事探し

 この間の契約書音読事件から、就職活動への気力が萎えていた。しかし、一度上手くいかなかったからといって、就職活動を辞めるわけにはいかなかった。


 オレができる仕事は、もっと単純で事前勉強が不要で見ればわかる仕事、やりながら覚える仕事なんだとわかった。自分への理解が深まった気がする。


 やっぱり、引っ越し屋かガソリンスタンドしかないかな。ウェイターなど給仕系の接客業ならできるかも……そんなことを思いながら、何となく就職情報誌のページをめくる。


 でも、ぶっちゃけこの情報誌も細かい字が羅列されていてあまりよく理解できないんだ。真奈美にオレの弱点をカミングアウトして、読んでもらおうかな……とも思う。


 音楽関係でできそうな仕事を探したほうが良いかもしれない、という考えが一瞬頭をよぎった。これまでの経験の活かせる仕事なら音楽しかない。


 でも、それはあまり現実的ではないなとすぐに思い直した。音楽活動を休止して田舎に移住したのに、また音楽やります、なんてさすがに誰も応援してくれないだろう。


 完全に迷走中だった。


『仕事探しはある意味自分探しとも言えるだろう』なんて上手いこと思いついたところで、何も解決にはならない。


 以前働いたことがある引っ越し屋もガソリンスタンドも、仲間が出来たりして楽しいときもあったけれど、特にやりたい仕事という訳ではなかった。オレにとってはそういう仕事は、自分の時間を売って、お金に換えるようなものなんだ。


 これまで自分の夢を貫いて、沢山の犠牲を払って、ある意味命がけで音楽をやってきたオレとしては、何かが物足りないのだ。


 人はいつかは必ず死ぬ。それは生まれた時から決まっている。命の時間は有限だ。


 だから時間=命だと思っている。


 時間を何に費やすかは、命を何に費やすかなんだ。オレは命を使う先を、心の奥底から湧き上がるような情熱的な何か、魂から求める何かに費やしたい。例えば、オレにとって歌うことがそうだった。


 自分の好きなことを仕事にする、という感覚は経験済みだ。ただ、今は自分がどんな形でそれを実現できるのかが全く見えてこなかった。

  

 早く方向を定めたいのに。



 やっぱりお義父さんに畑を教わろうか……


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