第7話 不思議な縁。

 さっそく登校するや否や職員室に突撃し


「先生になるためにはどうしたらいいですか?」


と村瀬に尋ねると、珍しく人間らしい驚愕を表した彼が


「あなたたちは本当に面白い兄妹ですね」


ともらしたので紅香はまたしても小首をかしげた。


「お兄ちゃんを受け持ったことがあるんですか?」


 そんなはずはないのだが、と紅香が頭をひねっていると。


「正式に教師になる前、免許を取得するための教育実習生のときに、彼のクラスにちょっとだけ……ね。いろいろ体験させてもらったよ」


 紅香は村瀬から告げられた真実に空が落っこちてきたくらいの衝撃を受けた。


「お兄ちゃんが言ってた、初々しさがまったくなかった教育実習生って……」


「おや、そんなふうに思われていたのか。まあ、昔から周囲の人間に『本心を読み取れない』って言われてるけどね」


 まさか、そんなめぐり合わせがあるとは。

 紅香が予想だにしなかった出来事に脱魂し始めた時、村瀬はさらに爆弾を落とす。


「更新手続きさえ忘れなければ一生使える資格で食いっぱぐれがないからっていう打算で教職課程を選んでただけだったんだけど、彼と話をした結果、こんなふうに傷つく子供は沢山いて、中には一人では乗り越えられない子もいるだろうって思ってね……手助けしたくなるよね。私はあのときに『子供の気持ちがわかる大人になりたい』と願って、その結果教壇に立つことになったんですよ」


 紅香は息が止まりそうになった。

 兄との妙な縁だけでなく、自分とも「志が同じ」というシンクロを果たしている。


 紅香は、自分たち兄妹は前世で村瀬の親戚かなにかだったのだろうかとまで推測した。


「おや、また驚いているね。ふふっ、本当に不思議な縁だ……で、本気で教師を目指すのかな?」


 紅香は抜け出した魂を引き寄せて、なんとか「はい」という返事をひねり出した。


「あなたが同僚になる日を楽しみにしています」


 教師はずっと一所にいるわけではない。

 転勤がある。


 なので、紅香が免許を取得し雇われてもすでに村瀬が他に行っている可能性が高いのだが……そういった確率論を無視したミラクルが起きそうな気がして少し怖い。


「ま、精進なさい」


 村瀬に頭をぽんと叩くように撫でられ、紅香が「はい!」と背筋を伸ばして大きく答えると、男子に「ロボット」とあだ名されている村瀬らしくなく非常に歓喜が駄々洩れの笑顔を向けられるのだった。




おわり

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こどもの気持ち。 雪の香り。 @yukinokaori

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