第4話

鬼面の男は校舎の入り口に到着していた。


「うわ、カギ閉まってる。」


鬼面の男はガラスを割って校舎に侵入した。


「ご丁寧にバリケードなんか張っちゃって~。」


文句を言いながらバリケードをどかして進み続けた。鬼面の男は教室棟の方に進んだ。


「三年生が一階なのか。って誰もいないじゃん。」


どっかに逃げて行ったのか?

もぬけの殻になっていた三年教室を見て鬼面の男は落胆した。


「さてさて、みんなは奥に逃げたかな?それとも上に逃げたかな?」






「特別教室棟の方に逃げてきたはいいけれど」


「あぁ、この人数が講堂で固まっているのはあまりよくないだろうな。」


三年生だけでなく、一、二年生も特別居室棟に逃げてきて、ほぼ全校生徒が特別教室棟の一番奥に位置する講堂に集まっていた。


「陸、どうするの?」


さっきから神田と話をしているのは、生徒会副会長の荊尾かたらお依菜紗いなさ。神田と同様、教師と生徒両方から信頼される人物だ。


「どうもしないさ。俺たちが何かしようとしてもこの状況じゃ誰も聞く耳を持たないだろう。」


講堂はほとんどがおびえた生徒だが、なかには物に当たる荒れた生徒もいた。


「そろそろ、鬼が校舎に入って来ていてもおかしくない。こちらに向かっていたらあと数分で到着するだろうな。」


「おい!ここに全員いたってやられちまう!」


「そうだ!誰かを外に追い出しておとりにしようぜ。」


この極限状態で、一部の生徒たちは非人道的な方法を口にする。


「なに言ってんだ!お前たちが外に出ればいいだろう。」


先ほどまでおびえていた生徒たちの一部もこの発言に反発する。思っていた最悪の事態が起ころうとしている。


「りっちゃん、、、」


「大丈夫、きっと大丈夫だよ。」


講堂でおびえきっている山本を福間ふくまりつが必死でなだめる。


「あぁ?なにが大丈夫だ?大丈夫ならお前が出ていけ!」


さっきまでの矛先が律たちに向いた。


「お前ら一年だな?お前ら二人様子を見てこい。」


「そうだそうだ、様子を見てこい!」


大勢の生徒から出ていくように言われた。二人は腕をつかまれ、講堂の外に追い出された。この事態を教師たちはただ黙ってみているだけだった。しかし、同じく見ていただけの俺にそれを責める資格はない。


「まさか、自分もついて行こうとか考えてない?」


「あぁ、そのまさかだよ。お前も来るか?」


依菜紗に向かって冗談めいた笑みを浮かべた。


「はぁ、仕方ないわね。」


依菜紗は呆れた顔をしたが意外にもついてくることを決めた。


「じゃあ、行くか。」


「えぇ。」


俺たち二人も講堂の外に出た。そこには先ほど追い出された二人がまだ残っていた。


「あなたたち大丈夫?」


「はい、私は何とか。でも綾乃ちゃんが、、、。」


綾乃と呼ばれた少女はかなり参っているな。


「まずは、この場から動きましょう?」


「はい。でも先輩たちはなんで?」


「さぁ?生徒会長様が自分も行くっていうから私もついてきたの。」


「そうですか、ありがとうございます。」


「鬼がこちらに向かって来ていてもおかしくない。2階から教室棟へ向かおう。」


講堂からさすまたと消火器を拝借して教室棟の方に向かう。

特別教室棟の2階を進んで行く。


「怖いくらいに静かね。」


特別教室棟2階には誰もおらず、物音ひとつしなかった。


「ここからは遮蔽物の無い廊下だ。特に慎重に行くぞ。」


「えぇ、二人とも大丈夫?」


依菜紗が一年生に声をかける。


「はい。大丈夫です。」


「私もだいぶ落ち着きました。」


二人とも思ったより大丈夫そうだ。


「よし、廊下には誰もいない進むぞ。」


四人は教室棟へ向かう廊下へ進んだ。




「第一村人はっけ~ん」


廊下の中腹に差し掛かったところで後ろから声がした。振り返るとそこには鬼面をかぶった男がいた。さっきまで外にいた男と同じ格好。


「走れ!」


神田がとっさに声を上げ、それを聞いた三人が教室棟へ向けて走り出す。


「逃げられるわけないでしょ。」


鬼面の男はあっという間に俺たちとの距離を詰めた。


「そのまま進め!」


この男、速すぎる。どんな脚力してるんだ。やはり人間ではないのか?

神田は三人に指示を出しながら振り返り、消火器を噴射した。


「おっとっと。」


消火器を噴射された男は後ろに飛びのいた。

神田は噴射し終わった消火器を鬼面の男に投げつける。


「なんてことするんだよ。」


男は消火器を軽々と片手で受け止めた。


「それはこっちのセリフだ。できればそれ以上こちらに来ないでほしいものだな。」


「そんなことできるわけないじゃない。」


そういいながら鬼面の男は歩みを進める。


「それ以上は来るなと言っているだろう。」


勝ち目は全くないが。あの三人が逃げられるようにできるだけ時間を稼ぎたい。

こちらに歩いてくる男に向かって神田は構える。神田は空手の有段者、他の格闘技の経験もある。


「いいね。君!」


男は口角を上げ、神田に向かって走り出した。


「狂人が。」


向かってくる敵に対して、神田は集中した。


「は?」


これを漏らしたのは鬼面の男だ。

男の拳は見えない壁に阻まれ、神田に届くことはなかった。

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