05 カミングアウト (最終話)


 修行と称し、マティたんとスローライフして約一年が経とうとしていた。


 オレは、そろそろ城下町に勇者が現れるころだ……と思っていた。

 そろそろマティたんを勇者へ引き渡さないと。


 本当は寂しい。行ってほしくない。

 だが、彼女は勇者のものだ……。


 オレはその日、マティたんに話があると、キッチンでコーヒーを煎れ座らせた。


「そろそろ、修行は終わりだ、マティ」

「え……では。そろそろ魔王のところへ。でも私、農業の腕は上がったと思うのですが、戦いに関してはまだ何も得られていません……」


「大丈夫だ。お前はもう覚醒できる、聖女としてな。もうすぐその引き金となる男と出会う」


「え……?」


「お前には運命の相手がいる。そいつに会えばお前は聖女となって魔王を倒す勇者のパーティの一員となる。だから、お前はもうこのロッジを卒業するんだ、マティ」


「待ってください、エルナン様が勇者でしょう? なんだか話がおかしい気がします。それに私が聖女だなんて」


 確かにおかしな話になってしまった。

 うーん、マティたんになら話してもいいか、オレの真実を。


「今まで黙っててすまない。実はオレは勇者じゃないんだ」

「え……」


 オレは、オレが転生者であること、この世界の魔王が倒されるまでの歴史を知っていることをマティたんに伝えた。


「だから本来オレは……おまえをパーティから追放し、ニセ勇者として断罪される運命の役回りなんだ。けれどオレはおまえがひどい目にあうのが嫌だった。だから勇者に出会うまで、ここでおまえを隠そうと思った」


「私を、守っていてくださったんですね」


 反論はあるものの、オレの言うことを信じてくれるマティたん、マジ聖女。


「……そしてついにおまえを勇者に会わせる時がきたんだ。オレは嬉しいよ。おまえを傷つけることなく勇者に引き渡すことができるのだから」


 マティたんと離れるなんて、本当は嫌でしかたない。

 けれど、これは運命だ。


「できれば、オレがここにいることは秘密にして欲しい。そして困ったことがあればいつでも訪ねてきてくれ。オレはいつでもおまえの味方だから」


 さっきからマティたんは黙ったままだ。

 怒ってしまったかな。


「いやです」


 マティたんの目から涙があふれた。


「えっ」


「私は、あなたと魔王を倒すと思って……がんばってきて……」


「ああ、うん。そうだよな。修行の件はすまなかった。でもここに連れてくることでおまえを奴隷商に売られるほか、ひどい運命から守りたかったし」


「そんなことではありません!! 私……私……」


「泣かないでくれマティ。急に環境が変わるから不安なのか? もしそれなら大丈夫だ。おまえにはこれから輝かしい勇者との未来が待っているんだ」


「……エルナン様」

「前から言ってるが、様はつけなくていいんだよ、マティ。オレは偽物なんだから」


「いやです! それに本物の勇者なんて……私にとっては、どうでもいいことなんです! 私はエルナン様が良いのです!!」

「そんなこと、言われても……オレは偽物だから魔王は倒せない」


「……!! そうじゃ、ありませんっ。私は、その本物の勇者を私の運命の相手にされたくない! だって私はあなたが好きなんです!!」


「……え」


「ここにいちゃ、ダメですか……?」


 涙目でまっすぐにオレを見てくるマティたんにオレは――。




******



 おかしいな。


 オレは一体何をしているんだろう。


 気づけば真っ赤な顔した裸のマティたんが、オレの下にいるんだよ。


 あれ? マティたんは、その、勇者のもとへ、行かせるはずで?


 ……うん。うん?


 いや、なんていうか。えーっと。


 マティたんの唇、柔らかかったです。ごめんなさい本当の勇者様。

 

 

 あー……えっと。


 神よ、ゆるしたまえ。



******



 その後、オレはそのままマティたんと暮らした。


 しばらくすると近くの街でニュースが配られた。


 それには魔王は勇者が1人で倒した、とあった。


 勇者すげえ。


 また、余談欄にニセ勇者とマッパーは行方をくらまし、他のパーティ仲間である冒険者とウイザードはできちゃった婚し、勇者パーティから離脱して全員解散となったそうだ。


 勇者……ぼっちか! 可哀想。


 まあ、前世でも昔のゲームは勇者1人で魔王とかに立ち向かってたし、勇者強いから1人でも大丈夫だったってことだな、うん。


 ちなみに、勇者が魔王を倒した頃、マティたんは普通に聖女に覚醒した。


「やっぱり……あなたはニセの勇者じゃないんですよ! だって、勇者と出会うことによって私は聖女に覚醒するんですよねっ!」


 ニコニコ顔のマティたんのヨイショがつらい。

 オレ、剣も魔法もモブクラスの普通の男だからね?


「それは、お前がもともと聖女に覚醒する予定だったんだろう。勇者がいなくとも」

「いいえ! 少なくとも、エルナン様、あなたは私の大事な勇者様です!!」


 マティたんが抱きついてくる。

 ああ、もう可愛いなああああ。


 今日のマティたんは10000000000000∞点だっ!!



                              おわり



――――――――――――――――――――――――――――――

短い小説ですが、お読みいただきありがとうございました。


※読んでくれた家族から指摘があり、5話をすこし書き直しました。

問題の部分を、短いのでここに元文を置いておきます。

ご迷惑おかけします、申し訳有りません。


******



 おかしいな。


 オレは一体何をしているんだろう。


 気づけば真っ赤な顔した裸のマティたんが、オレの下にいるんだよ。


 あったかい。そして柔らか……、お、おう……。


 Oh……。


 あれ? マティたんは、その、勇者のもとへ、行かせるはずで?


 ……うん。うん?


 いや、なんていうか。えーっと。


 マティたんの唇も、柔らかかったです。ごめんなさい本当の勇者様。

 

 あ、マティたん。そんなとこ触っちゃだめだよ。


 いや、別にいいけど、でもだめだよ。

 でもまあいいか。うん。


 あー……えっと。


 神よ、ゆるしたまえ。


******











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