04 マティたんと街へ野菜を売りに行く。


  修行という名目で、畑を耕し育て数ヶ月、作物はすくすくと育った。


 たまにマティたんからキラキラした光が作物へと降り注いでいるような気がするんだが、ひょっとしてこれは聖女の加護か? わからん。わからんが。


 そのおかげか、育ちが早いうえに大きく、味も良い。

 マティたん、農家向いてるね! さすがです!


 そうやって出来上がった作物を、オレとマティたんは、定期的に近くの街へ売りに行く。


「はい、売り切れでーす!」

「買えなかったか! くそー!」

「また来てください」


 うちの野菜、大人気。バンザイ。

 今度からは整理券を作ってくるかな。

 待たせた上に、買えないお客さまをだすなど、申し訳ない。


「いや、ホントまたくるよ! あんたら夫婦の野菜は最高だ!」

「ふっ……ふうふ……」

「ありがとうございます」


 マティたんは、真っ赤。一方、オレは相変わらず、否定はしないスタイル。


「修行が足りないな、マティ。動揺するな。オレたちは潜伏している勇者パーティだ。……夫婦のふりをしていると思えばいい」


「そっ……そうですね!! ふり……ふりですよね……」


 どうした、マティたん。

 元気がなくなった。


「疲れたか? 買い物を早くすませてかえろう」

「あ、は、はいっ。大丈夫です! 疲れてませんから!!」


 疲れているのに頑張って元気にみせようとする健気なマティたん! うーん300点っ!!


 街の市場へ行って、農業では賄えないものや、買ったほうが早いもの、備品を購入する。


 ん? どうしたマティたん。

 足を止めて何かを見ている……ん? 蝶々の形の……ピン留め?


「おじさん、これください」

「はい、毎度!」

「え、えるなんさまっ!?」

「最近頑張ってるご褒美だよ」


 オレはそう言って、そのピン留めを、マティたんのサイドの髪に付けた。

 きれいな額がすこしのぞく。

 うん、良き。


「あ、ありがとう、ございます……一生大事にします……」

「はは、安物だよ。もっと稼いだらもっと良いもの買おう」


 お金に余裕はあるのだが、やはり自分で稼いで自分で買うってのが良いよな。


「……いえ、エルナン様が初めてプレゼントしてくださったものですから」


 マティたんは目をすこしの間閉じて、ピン留めに幸せそうに手を触れた。

 こんなものくらいで彼女の幸せな姿を見れるなら、いくらでも買ってあげたいなぁ。


 そしてロッジへ帰ろうと歩いていると、牛を売っている人がいた。


「あ、牛がいますよ。エルナン様」

「ほんとだ、大きいな」

「そういえば、牛さんや鶏さんがいたら、新鮮な卵やミルクが」

「ふーむ。よし! 手が回るか不安だが飼ってみるか!」

「あ、でも費用は大丈夫でしょうか」

「それは心配ない。ちゃんと計算してある……ああ、街を行き来するのにロバや馬も欲しいな」

「そ、そんなに買って大丈夫ですかー!」


 勇者費用はそんなことでは揺らがない。大丈夫だマティたん。


「大丈夫だ。動物を飼育するのは大変だろうしもっと忙しくなるだろうが……きっと楽しい修行になるぞ」

「! そうですね! 私! 頑張ります!!」


 そして、しばらくして、オレとマティたんの土地に、家畜が増えた。

 

 なんとマティたんの謎のキラキラは、家畜たちにも恩恵があった。


 オレたちは、毎日、美味しい牛乳と卵を得られるようになった。


 なんか良いなぁ、こういう生活。





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