02 マティたんとスローライフを始める。


 オレとマティたんは、城下町から街道をぬけ、外国の遠い田舎の街へとやってきた。


 オレ達は新たな戸籍を取得し、ガイルの名を捨てた。

 新しい名前はエルナンだ。

 

 マティたんは、そのままマティのままだが、出身地などの戸籍だけ変えた。

 マティたんは、いずれ勇者パーティに行かせる予定だから、名前は変えないほうが良いだろうと思った。


 また未成年だと色々不都合があるので、年齡をあげて二人共成人していることにした。


「ガイル様……じゃなかったエルナン様。どうしてこんなことを?」

「勇者だとバレたら、周囲から色々助けられてしまう。それでは修行にならない」

「なるほど……! さすがはエルナン様!!」


 マティたんは素直な良い子だなぁ!


 この世界には銀行がある。

 よって城下町から抜け出す時に、すべて預金を引き出し、口座は閉じた。

 そして新しい戸籍で新たな口座をつくり、そこに大金を放り込んだ。

 転生前の銀行と違って、この世界の銀行は大きな金が動いても調査したりはしない。ゆるい。


 その資金で、たどり着いた田舎の街のさらに奥にある売れ残りの牧場・畑付き森有り一軒家有りの土地を購入した。


 これからオレは人里離れたこの土地で、畑仕事をして一生を過ごす。


 金はまだあるので城下町で魔法で整形もしてきた。

 前世と同じ黒髪黒目にしてもらった。


 もうマティたん以外はオレだとはわからないだろう。



「まあ、こんな人里はなれた森の奥にこんな立派なロッジがあったのですね。……以前の持ち主は牧場や農家をされていたのですね」


「正解だ。ここをキャンプ地とする。家を手入れしたら、修行を開始するぞ! マティ!」


「はいっ」


 それから数日、オレとマティたんは森のロッジを整備し始めた。

 マティたんは働きものだったが、もうすぐ整備が終わる……と思った頃に、熱を出して倒れた。


 バタン!!


「マティ!!」

「はぁはぁ……。だ、大丈夫で、す……」

「バカ……大丈夫じゃないだろ?」

「え……きゃっ」


 オレはマティたんを、お姫様だっこで、彼女の部屋へと運びベッドに寝かせた。


 タオルを絞って頭に乗せてやると、マティがしくしくと泣いた。


「エルナン様、ごめんなさい……役立たずで私……」


「城下町からずっと休みなしで動いたからな。そろそろ休んだほうがよかったんだ。なに、修行する時間はまだまだある。まずは生活と体調を整えよう。だから、しばらく休め、ほら、目を閉じて寝なさい」


「は……い……。あの……」

「ん?」


「眠るまで……手を繋いでもらってもいいですか……?」


 ムホッ。

 むほ? むふぉふぉふぉい? もふぇいお?


 推しにそんなこと言われたら……って! てて手ぇ繋がせていただきます!!

 失礼します!! ギュッ。


「……わかった。こんな人里離れた場所、不安だよな。ここにいるからゆっくり寝てくれ」


「はい……(すやすや)」


 マティたんは、オレの手を握ると安心して眠り始めた。 

 なんだこれなんだこれなんだこれ。


 推しがオレの手を握って幸せそう寝てるんだがー!

 本物の勇者様ごめんなさい!

 でも、ちゃんとその時がきたらマティたんはお渡ししますからー!

 これはマティたんのケアですからああああああ!!!


 オレは興奮したまま、夜中までマティたんの手を握って固まっていた。


 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る