第12話 本の海から呼べ (前編)
《ケングンたちはベルサイカ嬢と共に、城内へと足を踏み入れた》
―― 城内図書館は文字通り、城の中にある。
城門をくぐれば、大きく広がる玄関ホールに入る。
見上げれば、見上げるだけ自分の姿が小さくなるほど、天井が高い。その天井からは 小型の恒星のようなシャンデリアが下がり、床に敷かれた赤い絨毯へと あまねく豪奢の光を注いでいた。だけではない。光は、壁に起立する甲冑、観葉植物にも注がれ、玄関ホールそのものを一つの惑星のように仕立てていた。
その…一見して美しい星のジオラマに、招かれた皆既日食のごとく 真っ黒な人間が降り立った!
「広い…これが城ってコトか」
ケングン自身、こういった洋風の城は初めてだった!
『海外旅行にでも来たような気分~』 になる。が、ココが海外より遥か遠い場所だということを、忘れるなかれ。
ケングンは口を半開きにして「わ~」 感嘆のままに玄関ホールを見渡した。すると、左右から伸びる大きな階段が目に入った!
2本の階段が、同じ踊り場に対して連結するように伸びている。さらにその踊り場からは、また2本の階段が、それぞれ右と左へ手を伸ばしていた! 上から見れば『X』 の文字っぽく架かっている。
「図書館って上の方にあるんですか?」
「えぇ、2階にあります」
ベルサイカ嬢は、ふんわり優しく答えた。
確かに目を向けてみれば、滑らかに整えられた暗い木の手すりを撫でながら、階段に足を渡す人の姿もある。
「ほぉ~」
さて、この階段を眺めたならば、踊り場にあるアレにも触れざるを得ない!
「あの肖像画の人は、偉い人なんですか?」
「えっ!」
ベルサイカ嬢は、思わず驚愕した!
「「肖像画とは?」」 踊り場に飾られた、大きな絵のことだ! 金のフチで飾られていて、中では高齢のオジサマが、高貴な身分にしか許されないほどの長いヒゲをもって、シンと前を見据えていた。
「はい、あれは国王様ですよ」
ベルサイカ嬢は、再び優しく答えた!
なるほど、国の王様を知らないなど、政治に関心が無いとかいうレベルじゃない。
『よほど遠い国からいらしたのね』
ベルサイカ嬢は、心の中でツジツマを合わせた!
「国のトップでありながら、魔法使いとしても一級の実力を持っているんですよ」
「へ~! スゴイ!」
「200年以上生きています」
「へー、すごい」
「あら、信じてませんね。しかし…」
「これを見ても、同じことが言えますか?」 と、ベルサイカ嬢は悪逆非道のような口ぶりで、一枚の写真を取り出した!
それは…古い、くたびれた集合写真だった。まぁ集合写真と言っても、3人しか写ってない。
「この方々は?」
ケングンの質問に、ベルサイカ嬢は指をさしながら、丁寧に答えてくれた。
細い、軒先に垂れた氷柱のような指だった。
「この左端の方が、若かりし日の国王様です」
「えっ」
ケングンは、思わず踊り場の肖像画と見比べた! これにはワケがある。
写真では、3人の若者が肩を組み『いぇい!』 頂上に達した登山家のような笑顔で、カメラにピースをしていた! 右端の人物は真ん中の人物の頬を小突き、嬉しそうにキャイキャイしている。
一方、そんな2人を茶化すように、左端の人物は変顔でウケを狙っていた。
「このウケ狙いの人がですか?」
「はい、このウケ狙いの人がです」
ケングンは改めて、肖像画と写真を見比べた。
だが確かに、比べてみれば 面影があるような気がする。
『だとすると、相当にひょうきんな人だ…』
ヒョットコのように口を曲げ『グイっ』 これでもかと眼球をひん剥いている。悲しいことに、他の2人は見てすらいない。
「この2人の方は…?」
いたたまれなくなり、ケングンは話を変えた。
「右端のお方が、バクロカン様です。拳法の達人だったそうですよ。そして…」
ベルサイカ嬢は、真ん中の人物に指をやった。
「このお方が、ジェイルフォード様。私のご先祖様にございます」
「え! じゃあ」
「はい。いわゆる勇者様です」
ベルサイカ嬢は眼を細めて、写真の人物を見ていた。
「この写真は、200年以上も昔…ヴィンドエイジャーの討伐前夜に撮られた写真です」
「ヴィンドエイジャー…」
その顛末は、ケングンも警備兵から聞いた。勇者はヴィンドエイジャーとの戦いで相打ちとなり、死体を操り人形にされているらしい。
「なるほど。国王様と勇者様は、友達だったんですね」
「はい。『ご懇意にさせていただいた』 と、おっしゃられていました」
「え、じゃあホントに200年以上生きて?」
「ます」
「ふぇ~」
「は~~いストップ~! ナガバナシはこれまで~」
ちっこい布が! ピョンピョン跳ねながら、ケングンとベルサイカ嬢に割り込んできた!
「案内役はボ~ク! アンタぁ黙っとれぃ!!」
「ふふ、ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「さ! 図書館はこっちですよ。ボクから離れたりなんかしたら、迷子になりますからね」
レノアはそう言うと、ケングンのパーカーの紐を「ぐえッ!」 無理やり掴んで歩き出した!
こうして一行はそのまま、図書館のある階上へと歩みを進めた。
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