第7話 街入りのフシンシャ
スキンヘッドを撃破し、ケングンは女性の後を追いかけた。
「キャー! フシンシャ!」
「わっ、誤解です。誤解」
急いで追いかけたもんだから、まだズボンも履いていなかった。ケングンは取り合えず上だけを走りながら着て、その裾を引っ張ることでパンツを隠しながら走った。ともあれ、拭えない不審者感。逆に怪しくないか?
やがて、ケングンは丘を登った。その機会に眼下を見ると、道が途中から石畳に変わって見えた。
街だ。おもちゃ箱をひっくり返したようなカラフルかつアンティークな家々が並び、煙突の息だけが共通して一色だった。見渡す限りが平屋建てで、ほとんどの家で高さが変わらない。それが原因かは知らないが、屋根をピョンピョン跳ねまわって遊ぶ子供達の姿が見えた。
ここで顔を上げてみよう。すると、ケングンが丘上に居るにも関わらず、同じ目線でそびえ立つ大きな建物がいるはずだ。
それは、立派なお城だった。周りが平屋なせいか、その城だけが見晴らし良く、背景の山々と兄弟ヅラして並んでいる。
「大きいなぁ」
随分と遠くにはあるが、それでも迫力ある白塗りのキャッスルだった。晴天下にあってこそかもしれないが、新品のように白いあたり、新築か、毎月丁寧に塗り直しているのか。どっちであれ羽振りは良い。
ふと、丘上のケングンを柔らかな風が撫でた。そうして彼は、自分がズボンを履いていないことを再認識し、我に帰って恥を知るのだった。
「流石にパンイチで街ブラは無理」
『パンイチ』だの『街ブラ』だの、彼は下着に執心なのか。何であれ、ケングンは塩水でパキパキのズボンを無理やり履くと、そのまま下の街へと駆けていった。
街の入り口には、警備兵と思わしき男性が2人、神社の狛犬のように左右に座っていた。片や『ホゲ~』と壁にもたれかかり、上目遣いで空の雲をこねている。もう片や、持っている槍で地面に落書きをしている。つまり共々、空想にあぐらをかいている。
しかし、雲をこねていた方が、駆け下って来たケングンを見て「ん?」大きく手を振った。
「おーーい!」
ケングンの方も、男性に見覚えがあった。確か海から引き揚げられたときに、周りにいた気がする。
「どーも!」
「よう、もう大丈夫なのかよ」
男性は空想していたときのあやふやな表情とは違い、ハッキリと笑顔で聞いた。
「帰りながら皆シンパイしてたんだぜ? 『ありゃ身投げかもな』ってよ。でも元気そうで良かった」
『なるほど』 ケングンはここで、自分を救助してくれた男性が役場を進めてきた理由を掴んだ。
「心配かけてスイマセン」
「いいんだよ。そのタオル、あん時のか?」
男性はケングンの持っていたタオルに顎を向けた。
「律儀だなぁ、俺から返しといてやるよ」
「ありがとうございます。ところで何ですけど、ここをメッチャ走ってる女性が通りませんでした?」
「ん、あぁ。通ったよ」
男性は、もう片方の星をキャンパスにするアーティスト男性に確認した。「通ったよな?」「あ~、通った通った」 アーティスト男性は槍を指示棒のように操ると、「あっちに行ったな」と道を示した。
「すっげぇ急いでて、ありゃあデートの待ち合わせだね。俺は乙女心に詳しいんだ」
「後から男の2人組も来ませんでした?」
「あぁ、来たよ。ソイツらも走ってて、息ゼェゼェ切らしてたな」
「それ、女の人を追いかけてるんだと思うんです」
「何!?」 男性が声を上げた。どうやら通った各々について、何の関係も無いと思っていたらしい。しかし結び付けてみれば、追われる女と追う男。まして男は2人組。額面だけでも警備兵としてある以上、明らかに介入すべき事件だったはずだ。
気付いた男性はアーティスト男性の筆たる槍をブン取った。「うわーん!」
「少年! 女性のことを知っているのか?」
「えぇ、実は助けてくださいって頼まれたんです」
「助けてくださいッ!? 完ッッ全に法治の畑を踏み荒らす害獣を憂う声じゃないか。なぜ俺らに頼らなんだ?」
確かに、分かりやすい警備兵では無く、なぜ道すがら自分の服を布団にして裸を隠すケングンに声を掛けたのか。偶然だったとしても、この道を通ったのであれば改めて警備兵に助けを求めたっていい。
「今は考えたって仕方ないか。時間は一刻を争う」
男性は槍を掲げると、さながら英雄劇の主人公みたく
「ついて来い!」
と雄々しく叫び、道を走って行った。
「ヘンな人だなぁ」
「想像に毒されやすいタチなのさ」
「そう言うアナタは何を?」
「俺は地面に絵を描いて、誰かが見とれてコケるのを待ってる。そうして出来た擦り傷こそが、芸術だと思わんかね。ところで君は若いね。どれ、そこの木肌に君の肌を擦って」
「情報ありがとうございました」
ケングンはその場から立ち去りたいという欲求に駆られ、ダッシュで英雄劇の主人公男性を追った。
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