第7話 街入りのフシンシャ


 《スキンヘッドを撃破し、ケングンは女性の後を追いかけた》


「キャー! フシンシャ!」

「わっ、誤解です。誤解」


 急いで追いかけたもんだから、まだズボンすら履けてなかった!

 ケングンはとりあえずバタバタと、上着だけを走りながら着た。そしてスソを引っ張ってパンツを隠しながら走ることで、自らの健全を証明しようとした!

 ともあれ、拭えない不審者感。「「逆に怪しくないか?」」


「はぁ、はぁ~」


 やがて…ケングンは丘を登った。

 随分走ったので『ザ…ザ…』 ほとんど縋るように前を踏んでいき、ついに頂上にまで達した。


「…お」


 ふと吹き抜けた風に誘導され、眼下を見晴らしてみる。と、しっかり舗装された石畳の道が見えた!


「やっとこさ着いた…!」


 街だ!!

 オモチャ箱をひっくり返したようなカラフルかつアンティークな家々が並び、煙突の色だけが共通して一色。眺望の限り落ち着いた街並みで、小さな白い皿上にコンペイトウをコロコロのせたような、ほころぶ可愛らしさもある。

 だが風変わりなことに、見える全ての家が平屋建てだった。ほとんどの家で高さが変わらない。そのせいか、屋根を次々に跳び渡る子供たちも見えた。


 さて! ここで顔を上げてみよう!

 するとケングンが丘上にいるにも関わらず、同じ目線でそびえる大きな建物がいるハズだ。


「ほぇ~…」


 立派な、お城があった!


 街中が平屋なコトもあってか、まるで周囲の栄養を吸って育ったようにも見える。背後の山々とさえ肩を並べるほどに壮観で、ついでに言葉を借用できたなら、巨峰とも表現してみたいな。

 外装は白色で、カラフルな街に唯一塗られていない キャンバスのようなミルク色。新品のように真新しく、ホントに新築なのか、それとも毎月ヌり直しているのか。どっちにしたって羽振りは良さそう。


『ヒュウ~』

「ひぁぁ!」


 柔らかな風が舞い戻り、ケングンを優しく撫でた!

 その感触から、彼は自分がズボンを履いてない変態だったことを思い出し、改めて恥を知りつくした。


「流石にパンイチで街ブラは無理」


 『パンイチ』 だの『街ブラ』 だの、どうやら下着がお好きらしい。

 ケングンは塩水でパキパキのズボンを無理やり履くと『ダッ!』 ふもとの街へと駆けて行った。


・・・・・・・・・


 街の入り口には2名、警備兵っぽい男性らがいた。門の左右で狛犬のように座っている。

 しかし、片や『ホゲ~』 っと壁にもたれかかり 上目ヅカいで青空を仰いでいて、もう片や『ホゲ~』 っと持っている槍で、地面に落書きをしていた。本当に狛犬を置いた方が、マシかもしれなかった。


「ん?」


 空を仰いでいた方が、駆け下って来るケングンに気づいた!


「おーーーい! さっきの子か!!」


 男性が大きく手を振った! ケングンも、その姿には見覚えがある。


『確か、海から引き揚げられたときに周りにいた気がする』


 ケングンは立ち止まって、男性に挨拶した。


「どーも!」

「よう! もう大丈夫なのかよ」


 男性はさっきまでのアヤフヤな表情とは違い、ハッキリとした笑顔で聞いた。


「みんな心配してたんだぜ? 身投げかもって」

『やはりか…』「いやぁ、申し訳ない」

「ははっ、いいんだよ。そのタオル、あん時のか?」


 男性がケングンの持っていたタオルに顎を向けた。


「律儀だなぁ、俺から返しといてやるよ」

「ありがとうございます。ところで何ですけど」


 ケングンは さっきの女性のことを切り出した。ここまでは一本道だったので、順当に行けば女性はこの門を通っているハズ…。


「ん、あぁ。通ったよ」


 男性は、しかと頷いた!


 さらに男性は、もう片方の星をキャンバスにするアーティスト男性にも確認した。

 「通ったよな?」「あ~、通った通った」 アーティスト男性は槍を指示棒のように操ると、「あっちに行ったな」と道を示した。


「すっげぇ急いでて、ありゃデートの待ち合わせだね。俺は乙女心に詳しいんだ」

「後から男の2人組も来ませんでした?」

「あぁ、来たよ。ソイツらも走ってて、息ゼェゼェ切らしてたな」

「それ、女の人を追いかけてるんだと思うんです」

「何ッ!?」


 驚愕の声! どうやら通った各々について、何の関係も無いと思っていたらしい。

 しかし結び付けてみれば、追われる女と追う男。まして男は2人組。額面だけでも警備兵としてある以上、明らかに介入すべき事件だったハズだ!


 気付いた男性は、アーティスト男性の筆たる槍をブン取った。「うわーん!」


「少年! 女性のことを知っているのか?」

「えぇ、実は助けてくださいって頼まれたんです」

「助けてくださいッ!? 完ッッ全に法治の畑を踏み荒らす害獣を憂う声じゃないか。なぜ俺らに頼らなんだ?」


 確かに! 普通はケングンではなく、警備兵の方に助けを求める。この道を通ったんなら尚更で、改めて警備兵に助けを求めてもいい。

 男性はひとしきり悩んだものの、何も浮かばなかったらしい。首をブンブン! 振った。


「今は考えたって仕方ない! 時間は一刻を争う」


 男性は槍を掲げると、さながら英雄劇の主人公みたく


「ついて来い!!」


 と雄々しく叫び、門を走り抜けて行った!


「熱い人だなぁ」

「想像に毒されやすいタチなのさ」

「そう言うアナタは何を?」

「俺は地面に絵を描いて、誰かが見とれてコケるのを待ってる。そうして出来た擦り傷こそが、芸術だと思わんかね。ところで君は若いね。どれ、そこの木肌に君の肌を擦って」

「情報ありがとうございました」


 ケングンはその場から立ち去りたいという欲求に駆られ、ダッシュで英雄劇の主人公男性を追った!

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