第6話 がらんどうの勝利
《スキンヘッドの! 後ろ回し蹴り!》
スキンヘッドが後ろ回り蹴りを放った直後! ケングンはこの世界に来た時のことを思い出していた。
『あの時もこんな風に、海面を見上げていたな』
ケングンは海底に沈んでいた時と同じように、空のある方を見ていた。
しかし来た時と違うのは、空との間にあるのが海面ではなく…スキンヘッドのカカトってところだ!
「…!?」
ケングンは上体をグンと反らすことで、スキンヘッドの後ろ回し蹴りを回避した!
そしてッ!
「えいっ!」
呆気にとられたスキンヘッドの顔面へ、頭部をカタパルトのように発射!
「ぐッ…」 これが見事スキンヘッドの顎に当たり、立ち眩みを誘うことに成功する!
しかし…『軽ィ!』
仮にどれほどの攻撃であろうと、スキンヘッドに備えられた筋肉のジャンパーは ケングンの攻撃を丁寧に応対してしまうだろう!
攻撃が効かない奴と、攻撃を躱し続ける奴。どっちが有利かは、スタミナの観点で見ても明らか…!
『いつまでも躱しきれるワケがねぇ。俺の勝ちは揺るがネェんだよ!』
彼の脳内では既に、今の頭突きに対するツツましい実刑判決が出ていた。
ケングンは…死刑!
「しゃいッッ!」
雄叫びが大地に轟く! 処刑をもたらす執行官として、相手を打ちのめすサディストとして、目の前の罪人を破壊せねばなるまい!
その罪状宣告が…今! 『殺すぜボケガキがぁ!!』 読み上げられる。そのハズだった!
「がッ…」
スキンヘッドの声が、迅風の吹き抜けたように途切れた!
「わっ!」
その原因は…ケングン! イキリ立っていた喉ボトケを、ケングンが親指で押し込めている!
「ゲッ…!」 今しがた宣言を吐く予定だった首は ものの見事に声さえ出せず、ブツ切りにされたような咳だけを吐いた!
『ッ…!?』
一瞬! 息さえできなくなる!
呼吸器をふさがれた刹那のパニック。その突然途絶えた酸素供給に、体は皮膚のこわばりで応えた。
「あっ!」
さらに! ケングンは目を指で突いた!
「ギャッ!」 眼球を濡らす汁が、ケングンの指紋の溝をナメクジみたいに湿らす。と、スキンヘッドは目を大事そうに瞑った!
「てっ…ボケガァ!!」
潰れた視界の中から、やぶれかぶれの拳を振るう。しかし、今更こんな駄拳には当たらない。ケングンは当然ひらりと躱す。
『何で…?』
そういえば、当然なんかじゃない! 明らかにおかしなことが起きている。
スキンヘッドが精細を欠いた攻撃をする一方、ケングンは『喉ボトケ』 や『眼球』 などの、分かりやすい人体の急所を的確に射抜いていた!
『体が、勝手に動く』
ケングンにも、どうしてこんな芸当ができるのか分からない。分かるのは 相手のドコをドウすればいいかだけだった。しかも攻撃に至るまでの体の運びも、毎日続けた型稽古のようにしっくり動く。
「だァッッッ!」
大振りの突き!
これも躱す!
そして…
『あ…』
ドコを、ドウすればいいか。分かってしまった。
大振りの突きは結果的に、スキンヘッドの前足を大きく踏み込ませている。
つまり、股が開き切っていた。
「…ゴメンナサイっ!」
ケングンは股グラのアレを! 思いッきり蹴り上げた!
「~~~ッッッ!!」
スキンヘッドは…弱々しいコマのように回転すると、
「ア…」
自らのツリガネを大事そうに押さえて、地面に沈み込んでいった。
「……何てこったい」
これは…勝利なのか?
確かに目の前では、さっきまでケングンと対峙した上に骨まで折ろうとしてきた男が「ウゥ…」 うずくまっている。
「「だったら勝ちじゃないのか?」」 それが…言い切れない。なぜなら本来は勝利にあるハズの、『やり遂げた感』『報われた感』『ヤッター感』。そのどれもが鎮座すべき場所には、空っぽの風が吹いているだけだったから…。
『虚しい…イカサマで勝った気分』
しかし、余韻に浸っているヒマはない!
ケングンは急いでパジャマを拾うと
「さっきの人を追いかけよう!」
と思い立ち、スキンヘッドに一礼してその場を駆け出した!
・・・・・・ケングンが去った後
『…ガサガサ...ガサッ』
木陰から、生物が顔を出した。
生物は初めから、2人の闘争を見ていた。最初はヨコシマな気分で、明らかに弱っぽちなケングンが ボコボコにされるのを見ているつもりだった。
しかし…理外のケングン勝利。
「ヤッベぇ…」
生物は興奮も冷めやらぬまま、ケングンの後を追いかけた。
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