犬宮探偵事務所の日常
第54話 解決から日常へ
紅城神社の本堂はそのままに、鳥居に結界を張り怪異の住処として扱われていた。
管理を任されているはずの黒田は今、犬宮のいる探偵事務所のソファーで横になっていた。
顔に本を乗せ、お腹に手を置き寝息を立てている。
彼の近くに置かれているソファーには、薄い本を持って楽しんでいる心優と、あやとりを楽しんでいる最古の姿。
窓側にある回転椅子に座っているのは、犬宮探偵事務所の創立社である、犬宮賢。
黒田と同じく顔に本を乗せ、背もたれに寄りかかり眠っていた。
窓は微かに開いており、カーテンがユラユラと揺れている。
外からはクラクションの音や葉音など。
いつも耳にしていた音が聞こえ、心優は薄い本から顔を上げ窓側を見た。
青空が広がり、雲が気持ちよさそうに泳いでいる。
思わず笑みを浮かべ、心優は次に黒田の方へと視線を向けた。
黒田は紅城神社の件で深い傷を負っていたが、それはすぐに治った。
数日で治る怪我ではなかった為、心優は驚愕。
本当に治っているのか何度も確認したが、傷痕すら残っていない。
怪異という存在を今一度見せつけられたような気がしたが、もう深く考えるようなことはせず、今まで通りの生活を送っていた。
――――あの事件から、もう一か月。
犬宮は最初、少し気持ちが落ちており、探偵社は一時的に閉めていた。
でも、一週間前からは開けて、依頼人を待っている。
御子柴と陰陽頭は、信三にすべてを任せたため、もう何も考えなくていい。
漁船や、保険金など。ぶつぶつ言っていたが心優はもう深く考えなかった。
巴は今、一人暮らしをしている。
仕事が出来ないのは演技、人一倍仕事が出来て、有名会社の社員としてバリバリ働いていた。
――――そう言えば、時々ここに来ては、黒田さんがいるかどうか聞いてくるんだよなぁ。
黒田がいる時は、今まで変な勘違いをしてごめんとお菓子や紅茶と、沢山の物を持ってきている。
最初こそ素直に受け取っていたが、それが二週間以上毎日となると疑問が浮上してきたらしく、最近は黒田自身が巴から逃げている。
そんな日々も、平和だなぁ~って思いながら心優は過ごしていた。
――――嫌いじゃないけど……はぁ……。
「犬宮さん、依頼人が来ないからと寝過ぎではないですか? 依頼人が来たらどうするんですか?」
窓側にいる犬宮に声をかけるが、返答はない。
ため息を吐き、立ち上がり窓側に移動。
犬宮の顔に耳を寄せ、本当に寝ているのか確認。
「…………はぁ、寝てやがる」
寝息が聞こえたため、本当に寝ているのがわかった。
「まぁ、依頼人は来ないし、無理に起こさなくても――――」
そう思っていたら、廊下の方から足音が聞こえ始めた。
「っ、犬宮さん!! 依頼人です、起きてください!」
「ん~。あと五分……」
「子供のようなことを言わないでください! 貴方はもういい大人でしょう!!」
「俺はまだっ――――」
「はいはい、まだピチピチの二十九歳ですもんね!! おっさんとは言っていないので大丈夫です! それより、早く起きてください! 黒田さんも!!」
寝ている二人を叩き起こし、心優はドアまで来たであろう依頼人を出迎えた。
「こんにちは、犬宮探偵事務所へようこそ。では、あちらのソファーにどうぞ」
憑き人・犬宮賢は守銭奴探偵 桜桃 @sakurannbo
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