第50話 黒刀と危機

「だぁぁぁぁぁあ!! キリがない!!!」


 殴っても蹴っても、次から次へと現れる陰陽師達に、心優はいらだっていた。


 巫女達も式神を出して応戦するが、信三が一発で本人達を仕留めて式神はいなくなる。


 仕留めると言っても、拳銃で一発、腕や肩を撃って気を逸らさせているだけだから、殺してはいない。


「心優ちゃんや。殺しては駄目か?」


「さすがに駄目。犬宮さんからはやむを得ない時があるとは言っていたけど、今はまだその時じゃない」


「めんどくさいなぁ……」


 相手は心優達より弱い雑魚、本当に鍛えている陰陽師達なのか疑うレベル。

 それでも、体力は削られ、体は重くなる。


 喉が切れ鉄の味が滲み、気持ち悪い。

 でも、まだまだ終わりが見えない。


 終わりは見えないが、辞める訳にはいかない。


「絶対に、この先には行かせない。行かせるわけには、行かないんだ」


 行かせてしまえば、心優達の司令塔がいなくなる。

 それだけは、絶対に避けなければならない。


 そんな時、耳に犬宮の声が聞こえた。


『心優、戦闘中だろうけど聞いてほしい。雑魚はもう少しでいなくなるから頑張って。ただ、黒田の方が苦戦している』


 ────え、黒田さんが苦戦? あっちで何が起きてるの?!


『予想より雑魚があっちにも流れてしまったみたいで、呪異を刀の姿から怪異の姿にして何とか耐えている状態。俺も動き出さないといけないみたいだから、そっちが終わったらすぐに戻ってきて』


 矢継ぎ早に言われ、心優の意識が一瞬、陰陽師から逸れる。

 その隙に法術を放とうとしたが、すぐに意識を戻し、回し蹴りで気絶させた。


 ――――はぁ、今回の伝達。簡単に言えば、黒田さんの方が危険だから、早くこっちを終らせて犬宮さんの所に戻れって事でしょ。


「おやじ!! 早くこっちを終らせて犬宮さんの所に戻るよ! 指示が来た!」


「っ、あぁ、わかった!」


 ※


「呪異、調子はどう?」


『手加減しながらでは、難しい』


 滅紫めっし色の膝まで長い髪を翻し、錫杖で襲ってくる陰陽師達を薙ぎ払う呪異。


 黒田も赤い糸を放ち、陰陽師や巫女を拘束。身動きを封じていた。


 戦況は黒田達の方が優位に思えるが、数が数なだけに、黒田達はどんどんめんどくさくなってきていた。


『呪い殺しては駄目か』


「まだ賢からの指示は出ていない。勝手にそんなことをすれば嫌われると思うが、いいか?」


『い、いやだ…………』


「なら、我慢な」


 黒田の返答に、呪異はショックを受け首を横に振る。

 二人の余裕そうな態度に陰陽師達は怒りが芽生え、法力をお札に込め始めた。


 すぐに二人は気配を察し、法力を込め始めた陰陽師達を優先で拘束し、薙ぎ払う。


「雑魚は雑魚だが、油断は出来ねぇなぁ」


『めんどうさい』


「同意」


 ――――最初は二十くらいいた雑魚共も、今では十人程度まで減らす事が出来た。


 追加はないだろうと思った時、気になる足音が二人の鼓膜を揺らした。


 ――――カサ、カサ


『足音』


「来たな」


 すぐさま残りの雑魚を倒し、二人は近づいて来る足音の方向を見る。


 ――――カサッ


 足音が、止まる。

 二人の目の前には、一人の老人と巫女装束の女性が姿を現した。


 地面に転がる陰陽師や巫女の姿を見て、老人は眉を顰め顔を二人を交互に見る。


「これは、主らがやったらしいな」


「まぁ、俺達しかいないわなぁ」


 首をコキコキと鳴らしながら、黒田が適当に答える。

 余裕そうに思わせながらも、赤い瞳は鋭く光り、老人から目を離さない。


 赤い糸を垂らし、白い歯を見せ笑った。


「お前が紅城神社の陰陽頭か。じじぃになったもんだなぁ」


「…………お前さんは見た目、全く変わらんな、黒田朔よ」


「イケメン度は増してんだろ、惚れるなよ?」


 軽口をたたく二人をよそ目に、呪異は錫杖を構え老人を見据えた。


『あの者、呪うか?』


「まぁ、待て。まだ早い」


 陰陽頭と黒田が目を合わせ続けていると、巫女の姿をしている女性、御子柴が陰陽頭に耳打ちする。


「あの、陰陽頭。あの者を存じで?」


「あぁ、あやつは昔、紅城神社にいた元陰陽師だ」


「えっ、あの者が? ですが、確かあの者は首無しという怪異……」


 初耳だったため、御子柴は目を大きく開き質問を繰り返す。


「だが、あいつは我々を裏切った、裏切り者だ」


「裏切り者なんて酷いなぁ~。事実だけど」


 赤い糸を地面に垂らし、一度上げた手を下ろす。

 赤い瞳を細め、可笑しいと笑った。


「仕方ねぇだろうが、お前らのやり方はどうしても気に入らなかったんだよ」


「なら、わざわざ関わらんくても良いだろう。気の合う怪異と共に過ごせばよい」


「人は面白いからな、いい刺激になるんだ。現段階でもな」


「戯言が」


 二人が会話をしている時、御子柴は準備を整えていた。


 氷柱女房しがまにょうぼうを出し、黒田の隣にいる呪異を凍らせるように指示を出す。


 頷き、気づかれないようにふわっと冷気を出す。

 藍色の瞳を細め、気づかれないように凍らせ始めた。


 黒田達はまだ気づいていない、余裕そうに陰陽頭と話していた。

 このまま気づかれず、まずは呪異を倒す。この後、陰陽頭と共に黒田を殺せば終わり。


 御子柴は、先の展開を予想し赤い唇を横に引き延ばした。


 ピキピキと呪異の足元が凍り始める。

 呪異は空中に浮かんでいる為、まだ気づいていない。


 だが――……


「――――おっ?」


『ん? どうした』


「足元」


『???』


 黒田が呪異の足元を見ると氷が張っており、呪異もない眼球を下に向け固まった。


「気づいたみたいだけれど、遅いわよ!」


 御子柴が叫ぶのと同時に氷柱女房しがまにょうぼうが力を強め、勢いよく呪異を凍らせ始めた。


 勢いよくせり上がる氷、呪異は動くことが出来ず足から腰、首、頭と凍らされてしまう。


 黒田は自身が巻き込まれないように後ろへと跳び、避けた。


「ほ~、呪異を凍らせたか。さすがだな」


 感心したような声を上げ、凍って動かなくなった呪異を見上げる。

 そんな黒田の横に突如、雷が飛んで行った。



 ――――っ!?



 咄嗟に腕で防いだが、感電。

 後ろに吹っ飛ばされ、背中を強く木にぶつけてしまった。


「ガハッ!!」


「まだだ」


 黒田は震える体で顔を上げ、お札を持ち構えている陰陽頭を見た。


 痺れて動けない時を狙うように、またしても法力で雷を仕掛ける。

 腕で防ぐが、完全に防ぎきれず苦しげな声を出す。


「――――とどめだ」


 陰陽頭の言葉で御子柴が氷柱女房しがまにょうぼうに指示。

 氷の刃を作り、黒田へと勢いよく放った。


 黒田の赤い瞳には、向かってくる氷の刃が映る。

 避けたくとも、防ぎたくとも。体はもう、動かない。


 何も出来ないまま、黒田は赤い瞳を閉じてしまった。


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『――――そっちに向かったよ』

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