第42話 利用と最終決戦
氷柱女房の姿を見た瞬間、信三は苦い顔を浮かべる。
彼を守るように龍と竜が前に出るが、二人の顔も切羽詰まっていた。
今まで人間相手は沢山してきた手練れ達だが、怪異や式神を相手にしたことはない。
犬宮の仕事の手伝いはしていたが、実際に怪異と絡んだのは数回。それも、犬宮と共に居る時だけ。
今のような事態は初めて、どのように対処すればいいのか決めあぐねていた。
「私に式神を出させたことを、後悔しなさい」
「何を……」
動き始めた御子柴を見て、三人は拳銃を取り出し構えた。
そんな彼らの姿が滑稽というように彼女は笑う。
「まさか、私の式神、氷柱女房をそのような玩具で倒せると思っているのかしら。それは残念ね……。式神は人間ではないの、そのようなものでは倒せないわよ?」
「そうだろうなぁ。さて、困った」
口調は平静を保つが汗を滲ませており、信三は小さく嘆く。
その姿を面白いと嘲笑を浮かべ、御子柴は氷柱女房に指示を出した。
「嘆いても無駄よ。希血をこちらに渡さないから悪いの。氷柱女房、凍らしなさい」
『主の仰せのままに』
言うと右手を前に出し、勢いよく冷気を放つ。
信三達は腕で顔を覆うが寒さは変わらない。だが、何故か足が凍り始めてしまった。
「っ、頭!!」
竜が信三を守ろうと銃口を氷柱女房に向ける。
だが、すぐに凍らされ弾を出す事が出来なくなった。
「そんなっ…………」
「だから言ったでしょう。そのような玩具では、氷柱女房は倒せないと」
「ぐっ」と歯を食いしばり、耐えるしか出来ない。
そのような時でも足元の氷は徐々に範囲を広げ、三人を襲う。
「終わりね――……」
御子柴は、もう勝負はついたというように笑う。
その油断を、三人は待っていた。
音もなく、静かに信三と龍は拳銃を構えた。
銃口が向けられているのは氷柱女房――――ではない。
「終わりは、どっちかな」
氷柱女房が信三達の狙いを察しすぐに銃口を凍らせようとしたが、二人の早撃ちは氷柱女房に勝った。
――――パンッ
二つの銃弾が風を切り、目的の人物へと当たる。
血しぶきが舞い、右肩と左太ももを撃たれた御子柴は力が抜け、その場に倒れ込んだ。
『主!!』
御子柴が倒れた事で視線を逸らしてしまった氷柱女房。
すぐに竜が凍った弾の入っていない拳銃を捨て、ポケットに入れていた折り畳み式のナイフを取り出す――――のと同時に投げた。
冷風の威力は弱まっており、ナイフは真っすぐ御子柴の右胸に刺さった。
「――――グッ」
すぐ後ろに倒れ込み、御子柴は動かなくなる。
それにより氷柱女房も法力を与えられなくなり、姿を保てなくなった。
最後に『あ、るじ……』と、言葉を零し姿が消える。
足元に張っていた氷も溶けるように無くなり、三人は自由に動けるようになった。
すぐに駆け寄り、御子柴の容態を確認した。
「…………息はあります、問題ありません。いかがいたしますか」
「二人はその者の止血を。命を取るほどの怪我は負わせておらん、心配するな」
三人が放ったナイフと弾は、全てわざと急所を外していた。
「この場は任す」
「わかりました。頭も、お気をつけて」
「うむ。では、共に来てくれるか? 翔よ」
後ろでニコニコ笑って立っている最古に手を差し出し、信三は問う。
一瞬の迷いすら見せる事はせず頷き、最古は差し出された手を握った。
最古の行動に安堵しつつ、ここから始まるであろう最終決戦に信三の胸が絞まる。
これから起こるのは、犬宮や最古にとって思い出したくもない過去との因縁を断ち切る行い。
二人の精神状態がどうなるのか予想が出来ない。
それも不安に思いつつも、信三は最古と共に廊下を走り出した。
犬宮や黒田、自身の愛娘がいるであろう神社の裏手へと――……
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――――――――ピクッ
彼が走り去った後の廊下に龍と竜の悲鳴に近い声が響いたが、信三の耳には届かなかった。
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