第40話 尋問と魁
拳銃を突きつけられ、御子柴は汗を滲ませる。
「――――いいよ、竜。口から手を離して」
犬宮に言われ、竜は言われた通り口から手を離す。
御子柴はここで助けを呼ぶために大きな声を出すわけにはいかない。だが、情報を漏らすわけにもいかない。
犬宮の漆黒の瞳に見つめられ、赤い唇が微かに震えていると、急に口角を上げた。
「――――何が条件で発動したんだ」
犬宮が舌打ちをこぼし、御子柴の上空を見る。
視線の先には、今まで見た事もないような化け物。
大きな口を開き、この場にいる全員を見下ろしていた。
「残念だったわね。力を持つ持たない関係なく、誰かが鳥居を潜れば現れるようにしていたのよ」
挑発するように犬宮を睨み、言い放つ。
御子柴の頭上に現れていたのは、紅城神社にずっと封印されていた怪異、
見た目は、大きな人の頭。
黒い髪を後ろに流し、白目がない黒い瞳を犬宮達に向けている。
口から覗き見えるのは、黒い歯。
大きく開くと中から黒い霧が現れ、犬宮は「うっ」と鼻をつまみすぐさまその場から離れた。
犬宮の様子に竜も驚いてしまい、御子柴を掴んでいた力が一瞬緩む。
その隙に腕を振りほどき、その場から離れてしまった。
直ぐに追いかけようとしたが、膝をついてしまった犬宮が視界に入り足を止めてしまう。
信三も直ぐに駆け寄り、様子を確認した。
「どうした賢!」
「……………………臭い、ものすごく、臭い。生ごみに顔を突っ込み、そのまま閉じ込められてしまったみたいだ。いや、それ以上かも」
「それは最悪だな……。想像すらしたくない」
犬宮の顔は真っ青。
鼻をつまむ手は震え、目には涙を浮かべていた。
色んな臭いを感じて生きてきた犬宮に、そこまでのことを言わせる魁は相当臭いんだろうなと、信三も顔を歪め見上げた。
その際、最古が一人、犬宮から離れる姿を確認。本堂へと駆けだしていた。
危険だと呼び止めようとしたが、視界に魁の姿が入り込む。
喉が絞まり、体がカタカタと震えてしまい動けなくなってしまった。
そんな彼らを他所に、御子柴は今度こそその場から離れる。
「それじゃ、魁、お願い」
『……………………』
御子柴の言葉に反応を見せない。
その事に不思議に思いながらも、犬宮はすぐ追いかけようとしたが、魁が息を吐き身動きを封じられる。
「くっそ!!! 臭い臭い臭い!!」
涙が溢れ、止まらない。
鼻をつまんでも意味はなく、苛立ちが募り歯を食いしばる。
涙でぼやける視界の中、犬宮は最古がいないことに気づき慌てて周りを見回い始めた。
「翔……? 翔どこ!?」
叫ぶが、最古からの返答はない。
焦り、周りを見ていると魁が動き出す。
大きな口を開き、犬宮達に襲い掛かった。
「くっそ!!」
最古がいなければ、今以上の狗神の力が使えない。
犬宮は瞬時に立ち上がり、信三達を後ろに下がらせた。
大きな口を開き、襲いかかってくる魁をギリギリで避ける。
「……………………魁って、たしか紅城神社にずっと封印されていた怪異。なんで、言うことを聞いているんだ……」
――――いや、聞いてはいない、か。さっき、反応なかった。
犬宮が動くと、魁も動き出す。
咆哮を青空いっぱいに響き渡らせ、黒い歯を見せ口を横へ引き伸ばした。
その表情はまるで、笑っているかのよう。
犬宮は悪寒が走り、背筋が凍る。
「魁、魁…………あ。もしかして――――っ!」
犬宮が考えている時でも、魁の動きは止まらない。
長い髪が左右に広がったかと思うと、犬宮に向けて放たれた。
すぐに体を捻じり回避し続けるが、徐々に避けられなくなり切り傷を作っていく。
後ろで見ていた信三は拳銃を取り出し、竜と龍にも指示。
打とうと引き金に人差し指を置くが、怪異を相手にしたことがない信三達には知識がない。
どこに打ち込めばいいのかわからない。それでも、何か犬宮を助ける方法はないか探る。
そんな事をしていると、犬宮の腕に黒い髪が絡みつき始めた。
一瞬動きを止めた事で右腕だけでなく、左手、右足、左足と捕まる。
完全に身動きを止められてしまった犬宮は、魁に引き寄せられてしまった。
「賢!!!」
信三が叫ぶが、魁は気を逸らさない。
犬宮を見て、不気味な笑みを浮かべた。
臭いに涙が溢れ、頭痛がしてくる。
そんな中でも犬宮の視線は、至る所に向けられた。
何かを探すようにさ迷わせている瞳は、信三の近くに落ちているビニール袋に注がれる。
黒い瞳を細め、口を大きく開き叫んだ。
「信三さん!!! その中にあるペットボトルを投げてください!!」
犬宮の叫びに、信三はすぐさま地面に落ちている袋を見やる。
駆け出し、袋からペットボトルを取りだした。
「投げてください!」
何かを考えている。
それがわかった魁は、何もさせるかというように口を大きく開いた。
信三は「間に合え」と呟き、ペットボトルを犬宮に言われた通りに投げた。
だか、それが遅かったのか間に合ったのか。
犬宮の体と共に、ペットボトルは魁の口の中へと転がった。
「…………す、ぐる?」
信三は目の前の光景に茫然。
立ちすくみ、口を動かしている魁を見上げた。
「……………………?」
信三の隣に竜と龍も駆け寄る。
目を離せず見続けていると、何か違和感を覚え、眉を顰めた。
『――――グッ、ギャ、グギャ』
なぜか突如、魁が苦しみ出した。
浮いていた魁は地面に大きな音を立て落ち、苦しみから逃れようと転がる。
ゴロゴロ転がっていると、何故か途中で止まった。
「な、なんだ……?」
動きを止めてから数秒後、黒い口が震えながら開かれた。
「……………………はぁ、死んだ」
「賢!? 大丈夫なの……か?」
信三が駆け寄ると、犬宮が手に持っていた物が目に入る。
「それは、さっきのペットボトルか?」
頭を抱え、眉間に深い皺を寄せている犬宮が持っているのは、何も入っていない、先程信三が投げたペットボトルだった。
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