第39話 苦痛と尋問
五人は、何度か陰陽師に襲われたが、無事に紅城神社へ辿り着いた。
曲がり角で立ち止まり、顔を覗かせ神社を見る。
「人は居ないらしいな……」
「確かに、人はいないように見えますね」
犬宮達の目線の先には誰もいない。
もっと奥を見通すが、石畳辺りにも人の気配すらない。
それなのに、犬宮と信三は動こうとせず立ち止まっているため、竜と龍は後ろで顔を見合わせる。
「人ではなく、気色の悪い臭いが漂っています」
「ワシにも分かるぞ。肌にびしびし刺さる気配、このまま行けば返り討ちに合うな」
龍と竜には、二人が感じ取っている気配が分からない。
最古は自ら犬宮の役に立ちたいと思い、普段見えない瞳を露わにし、鳥居の奥を見据えた。
集中力を高めると、最古の鼓膜を揺らす声が聞こえ、犬宮の裾を引っ張る。
「ん? どうしたの、翔」
問いかけると、最古が鳥居の先を指さす。
何を指しているのか、今四人がいる場所からではわからない。
「翔、何が聞こえる?」
「奥、男、女、三人」
最古の言葉は信三達には理解出来ず、「へぇ」と、口角を上げ楽し気に笑っている犬宮を見た。
「神社の奥に男性一人、女性二人が話している声が聞こえるみたいです。男はおそらく黒田、女性三人の内一人は心優。もう二人は、おそらく報告に上がっていた巴という巫女と式神かと思います」
「つまり…………」
「あちらはプランBに移行されたという事ですね。でしたら、俺達もプランBに移行しましょう」
言うと曲がり角から歩き、鳥居の前で立ち止まる。
雲がたちこむ空を見上げると、漆黒の瞳を細めた。
「一体、強力な怪異が待機している。黒田がいない今、狗神に頼るしかないのか……いや、怪異によっては今の俺でも倒せるか……」
眉間に深い皺を寄せ、犬宮は顔を下げ考え込む。
何を考えているのか信三が問いかけるが、聞こえていないのか無反応。
再度問いかけるが返答はない。
信三が諦め口を閉ざすと、犬宮は何かを見つけ顔を上げた。
「――――あれは、御子柴という巫女か? 屋敷の奥に向かおうとしているな」
犬宮の視線の先には、凛々しい姿で歩いている御子柴の姿。
彼の言葉に、信三達も鳥居の奥を見た。
「側近などはいないみたいだな。どうする、行くか?」
「いえ、俺達が行くよりおびき出したいです。今、屋敷の奥に向かわせるわけにもいきませんし」
犬宮はまたしてもビニール袋に手を入れ、ねずみ花火を取り出した。
ついでに買ったライターも取り出し準備。
袋の形的に、まだ中に残っている。
信三は横目で見ると、何に使うのか分からない物が入っていたため、怪訝そうな顔を浮かべた。
「残りのこれは、何に使う予定だ?」
「あ、それは陰陽師達の因縁を断ち切る時に使いますよ。必需品です」
ビニール袋に残っていたのは、ワイヤレスイヤホンと折りたたみ式のナイフ、純水と書かれているペットボトルだけだった。
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御子柴は自身が貸していた式神、氷柱女房が消滅したことで巴の身に何かあったことがわかった。
巴自身に何が起きても、御子柴にとってはどうでもいい。だが、異変だけは確認し解決しなければと、神社の奥へと向かう。
「――――氷柱女房をもう一回出すには、もう少し時間が必要ね」
懐から一枚の式神を取り出し法力を込めるが、まだ出せないと悟り諦めた。
その時、人の気配を感じ足を止める。
御子柴が足を止めたのは石畳の上、横を向くと赤い鳥居が怪しく立っていた。
いつもとは見え方が違う鳥居に、御子柴は首を傾げつつ近付いて行く。
鳥居までたどり着き、手で触ったり周りを見たりして違和感の正体を探るが、結局何もわからず諦め、息を吐いた。
何事も無かったかのように振り返り、目的の場所へ歩き出そうと一歩、足を前に出した。
瞬間、足元に突如光る何かが現れ驚きの声を出した。
「っ、な、なに!?」
御子柴の足元を駆け回っているのは、ねずみ花火。
予想の出来ない動きを見せ、御子柴は千鳥足で避ける。
何とか転ばずに避けていたが、死角から石が飛んできて、それを反射的に避けようとすると、体の重心がぶれバランスを崩し、後ろに倒れる。
影に隠れていた竜が飛び出し、倒れ込む前に受け止めた。
驚きで目を見開いている御子柴の口を塞ぎ、犬宮の所へと引きずる。
何とか逃れようと藻掻くが、男性の力に女性である御子柴が勝てるわけもなく、簡単に鳥居を潜り外へと連れ出されてしまった。
「――――式神、出さなかったな。つまり、今お前は式神を出す事が出来ない無防備状態。それだけわかれば、それでいい」
竜が御子柴を連れ出した先には、臀部から犬のような尾を出し揺らしている犬宮の姿。
耳は犬のように三角、目は闇に染まったような漆黒。
冷たく、視られるだけで凍り付きそうなってしまう。
隣には、腕に包帯を巻いている最古がニコニコ笑顔で立っていた。
そんな犬宮を見た御子柴は、再度藻掻き逃げだそうとするが、竜がそれを許さない。
コツコツと近づかれ、顔を近距離まで寄せられる。
「御子柴美鈴、単刀直入に聞く。なぜ、今になって俺や翔を狙い始めた。なぜ、ここまで大きく動き出した。それを答えてくれるのならば痛い思いはさせない。自分一人だけでも助かりたければ、簡単に答えろ」
背筋が凍るような感覚が御子柴に走り、目を泳がせ犬宮の漆黒の瞳から逃れようと目線を逸らす。
だが、犬宮は視線すら逃がさないというように、もっと顔を近づかせた。
「もし、答えないのなら――……」
「──っ!?!?」
犬宮が御子柴のお腹辺りに押し付けたのは、信三から受け取った拳銃だった。
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