第38話 約束と苦痛

 作戦がまとまった五人は、さっそく動き出していた。


 信三達は自身の武器を持ち、犬宮も懐を気にしながら、陰陽師達の臭いを見つけ警戒を高める。


「こっちにも、陰陽師達がいますね」


「人数がいるようだな」


「そうですね。何とか出来そうではありますが」


 屋敷の中まで入ってこない陰陽師達は、屋敷の全方位を囲い、犬宮達を外に出さない動きを見せていた。


 縁側の影から見ていた犬宮は、自身の指を噛み、血を出したかと思うと、あらかじめ用意していた煙球にぐりぐりと押し付ける。


 そのあと、陰陽師達の死角となる所から縁側の草木に隠れ、投げた。



 ――――ぷしゅぅぅぅうううう



 突如、煙が出てきたことで一瞬戸惑いを見せるが、さすが今まで怪異を相手にしてきた陰陽師達。


 すぐに気持ちを落ち着かせ、すぐに煙玉であると理解。

 慌てる必要はないと一人の陰陽師は言うが、微かに含まれる怪異の気配に片眉を上げた。


「怪異の気配だと?」


 顔を見合せ、二人の陰陽師は煙玉に近付き始める。


 ――――ばっ!!


「っ――――」


 ――――ガンッ ゴンッ


 白い煙から姿を現したのは龍と竜。


 陰陽師達が一瞬、気を散らした際に煙玉の方向へと移動していたのだ。


 人の気配より、怪異の気配を感じ取るよう修行して来た陰陽師達は、そちらに気を取られてしまい人の気配まで察知出来なかった。


 一瞬のうちに二人の陰陽師達を行動不能にした龍と竜は、後ろで待機していた犬宮達に合図を送る。


 が、すぐに応援が来る。

 陰陽師達が札を出すより先に、信三と犬宮が拳銃を出し発砲。


 頬を微かに掠め意識を逸らした隙に、龍と竜が動き出し一発で二人を気絶させた。


「何人いるのだ……」


 はぁ、とため息を吐く信三の隣では、なぜか犬宮が歓喜の目を浮かべ拳銃を見ていた。


「発砲音、本当に鳴らないんですね」


「特注品だ。弾を数多く入れられんのが難点だがな」


 犬宮はあらかじめ屋敷内に置いてあった拳銃を一丁、受け取っていた。


「このままでは仲間を呼ばれる。早く片付けようぞ」


「わかりました、よろしくお願いします」


 会話を交わし、犬宮達は屋敷の周りに立っている陰陽師達を次から次へと気絶させていく。


 助けすら呼ばせない程の速さ。

 十人以上はいたであろう陰陽師達は、ものの五分足らずで全員行動不能にさせた。


 ずっと、少し離れた所で静観をしていた最古を呼ぶと、素直に犬宮の隣に移動してして来た。


「ヤクザの屋敷だったのが幸いでしたね。人払いをせずに済んだ」


「まぁな。では、早く紅城神社に向かうぞ。心優達と合流しなければ」


「あ、それより先に行きたい所があるのですが、よろしいでしょうか?」


 信三がすぐに紅城神社に向かおうとしたが、それを犬宮が止める。


 どこに行きたいのか問いかけると、それは予想外な場所だったため、信三含め皆口をポカンと開け、惚けた声を出してしまった。


 ※


 犬宮の用事を済ませた四人は、人の目が無い路地裏を走っていた。


「――――止まってください」


 先頭を犬宮が走り、最古がそれについて行く。

 信三も龍と竜と共に走っていたが、今の犬宮の言葉で立ち止まった。


「陰陽師の臭いがします」


「先回りされていたという事か」


 どうしたものかと渋い顔を浮かべる信三の横で、犬宮は怪しい笑みを浮かべた。


「――――知っていますか、信三さん。人間というのは、警戒心がマックスになっていると、小さな物音にも敏感になり、普段は気にしない気配も原因を突き止めないと気が済まなくなるんですよ」


 言うと、腕にひっかけていたビニール袋から一つのおもちゃを取り出した。


「それは、先ほど大型スーパーで買った、鼠のおもちゃか?」


「今のスーパーって、このような玩具まで置いてあって便利ですよね」


 言いながら、ついでに買ったドライバーも取り出し中をこじ開け、いじる。

 満足したように鼻を鳴らすと、鼠の背中についているネジを回し始めた。


「陰陽師は、子供のようにおもちゃで遊んどけ」


 ぽーいと投げられた鼠のおもちゃは、地面に落ち陰陽師達へと駆けだす。

 信三はまだ陰陽師達を目視できていないため、犬宮の狙いがわからない。


『うわっ?!』


『な、なんだこれ!!』


 突如、奥から男性の慌てたような声が聞こえ始めた。


「な、なんだ?!」


 信三達が警戒している隣で、犬宮が袋から制汗スプレーを取りだした。

 壁に背中をつけ、近づいてくる足音に集中する。


「待て!! 何だこのおもちゃ!!」


「待ってください! 誰が仕掛けたんですか!!」


 子供のおもちゃに弄ばされている陰陽師二人を見て、犬宮は冷ややかな、意地の悪い笑みを浮かべた。


 前を通り抜けようとした陰陽師の前に立ち、容赦なく制汗スプレーを顔に放つ。


「「ギャッ!!!」」


 涙を流し後退する二人に、最後の一発というように溝に膝を蹴り上げる。

 二人を気絶させた犬宮は、パンパンと手を叩き、後ろにいる信三達へ振り向いた。


「では、行きましょうか」


「ぬしは、本当に怪異か? なんか、やり方が陰湿…………」


 信三がげんなりしていると、犬宮が「何を言っているんですか」と口角を上げ爽やかな笑みを浮かべた。


「陰湿な方が、やられた方はむかつくでしょう? これは俺達の復讐なんです。もっと、苦しんでもらわないと」

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