第33話 別行動と接近

「はぁ、はぁ……」


 心優は今、神社の裏まで走っていた。


 ――――今、巴ちゃん、神社の裏手に向かって行った。

 

 だが、肝心の巴を見失ってしまい、立ち止まらなくてはならなくなった。

 膝に手を置き、汗を拭く。


 ――――早く、見つけないと。


 下唇を噛み、再度走り出すと、木と木の間に巴の姿を確認できた。


「巴ちゃっ――――」


 声をかけようとしたが巴の傍には前回、黒田と同等にやりあっていた式神、氷柱女房しがまにょうぼうがおり、口を塞ぐ。


 何かを話しており、心優は冷静に木の影に隠れ身を顰める。


氷柱女房しがまにょうぼう、私は失敗した。まさか、あそこから抜け出すなんて思っていなかった」


も予想していなかったでしょう。どこに実を顰めていたのか』


氷柱女房しがまにょうぼうもわからなかったの?」


『はい。怪異が潜んでいるなど、気づきませんでした』


氷柱女房しがまにょうぼうでもわからない程、気配を消すのが上手って事?」


『主にも気づかなかったのですから、相当です』


「そうなんだ」


 二人の会話を聞いて、心優はなぜか鼻を鳴らし「当然でしょう、犬宮さんのお相手さんなのだから」と胸を張る。


「今回出てきた怪異って、首無しっていう……」


『えぇ、そうみたいです。貴方の両親の仇です』


「……………………そうね。御子柴様が言っていたもの。私の両親は、首無しという怪異に殺された。首無しは、私の仇……」


 巴の額には青筋が立ち、拳は強く握られる。

 背後にいる心優にも殺気がビシビシと伝わり、体が震えた。


「……………………巴ちゃんの両親は、本当に黒田さんが殺したのかな……」


 今、心優の頭の中には、黒田とのある会話が浮上。

 胸がキュッと締め付けられた。




 ――――刀?


 ――――これが呪異の仮の姿。俺がまだやんちゃしていた時の愛刀だ



 冷や汗が流れ、嫌な想像が頭を駆け回る。


 ――――この、"やんちゃ"って、いつの時だろう。

 まさか、本当にやんちゃしていた時、呪異を使って人間を殺しまくっていたとか?


 口が震えてしまい、声が出ないように手で抑える。

 すると、気配なく後ろから肩を掴まれてしまい勢いよく振り返った。


「っ!!!」


『しーーーー!!!』


 振り向くと、黒田が汗を滲ませ、ゲンナリしたような表情を浮かべ立っていた。


「く、黒田さん」


「お前、俺からなるべく離れるな。ここまで来るの苦労したぞ」


 黒田はすぐに任された仕事を全て終わらせ、心優を追いかけてきていた。

 必死に走ったのか、ウィッグの前髪部分が額にくっつき、息が荒い。


 汗を拭き取りながら、心優が見ていた光景を覗き込む。


「――――あぁ、確か巴って女だったか、あいつ。油断すると、俺の気配で場所がばれるな……」


 心優は、自身の肩を掴む手を思わず見てしまう。


 もしかしたら、この手で何十人と殺しているのかもしれない。

 信じたい、けど黒田の発言と巴の証言により、心優は疑心暗鬼に陥っていた。


 彼女の動揺は黒田にも伝わり、目を丸くし顔を覗き込まれる。


「どうしたんだ?」


「っ、い、いえ…………」


 流石に今は聞けない。

 そう思い誤魔化そうとするも、黒田はさらに追及しようと顔を近づかせた。


 だが、巴と氷柱女房しがまにょうぼうが動き出してしまい、今以上聞くことが出来なくなった。


「ちっ」


 巴と氷柱女房しがまにょうぼうは、地下へ進むため階段を降り始めた。


「追いかけるぞ」


「はい……」


 不安が心優の占める中、黒田も同じく疑問が胸に残りモヤモヤした気分を味わっていた。


 お互いに何も聞くことなく、二人は巴達を追いかけるため、地下へと降りていった。

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 巴達が地下に行き、後ろを心優達が付いて行く。

 気配を消し、足音に気を付け進む。


 下まで行くと前を歩いていた巴達は、心優が閉じ込められていた牢屋の前で足を止めた。


 中を見ると、まだ椅子は置かれ縄が地面に落ちている。

 心優が逃げ出してから何もしていないのがすぐにわかった。


 それだけ陰陽師達もあちこち走り回り、余裕が無い日々を過ごしていたのだろう。


 階段下で黒田と心優は足を止め、気配を殺し壁に床を付け顔を覗かせる。

 何をするのかと見ていると、巴が牢屋の扉を掴み、キキキッと音を鳴らし開けた。


「鍵、閉まってないのか……」


 牢屋の扉を開くことが出来たため、中に入る。

 無駄に触れないように気を付けながら椅子の周りを見たり、壁に触れ何かを探す。


「――――やっぱり、何か仕掛けがあるわけじゃないよね」


『隠れられそうな所もありません。誰かに成り代わっていたのかもしれませんね』


 心優が牢屋に閉じ込められている時の光景を思い浮かべ、巴は目を開きハッとした。


「看守、顔とかは暗くてよく見えなかったけど、一番怪しいのはその人だった」


『可能性、ありますね』


「となると、また侵入している可能性がある?」


『かもしれません』


 ――――やばい、気づかれた。


 どうするのか黒田に聞こうと顔を上げると、何故か後ろにいたはずの黒田がいない。


 どこに行ったのだろうと顔をきょろきょろさせると、巴の小さな悲鳴が聞こえ振り向いた。


「やっぱり、侵入していたんだ」


「まぁな。俺の巫女装束、綺麗だろ?」


「ただただきもいです」


「……………………今の言葉が俺の心を抉った……」


 いつの間にか黒田が影から姿を現し、行動に移していた。

 

 軽口を叩きながら指先からは赤い糸を放ち、氷柱女房しがまにょうぼうの身体を拘束、巴の後ろに立ち首を片手で掴んでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る