第32話 気配と別行動

 気配を消している為、誰の目にもとまらないで且つ、迅速に紅城神社に四人は辿り着いた。


 神社に辿り着くと、先ほどまでニコニコしていた最古は、過去を思い出し顔を青くする。

 犬宮の手を握り、縋りついた。


「ん?」


 震えを感じ取り、下を見て掴まれている手をきゅっと掴み返した。


「翔、大丈夫だよ。絶対に、守るからね」


 最古を見て、犬宮は微笑む。

 最古も犬宮を見上げ、固まった笑顔を向けた。


「……………………ぼくも、まもるから……」


 両手できゅっと犬宮の手を掴み、眉を吊り上げ強い意志を見せた最古。


 二人の様子を見ていた心優は、顎に手を当て首を捻る。

 黒田は最古とはまた違ったニコニコ顔を浮かべ、二人を見守っていた。


「やっと、二人が通じ合ったな」


「え、通じ合った? 何がですか?」


「なんでもない。んじゃ、行きたくないが、行くかぁ~」


 黒田は巫女装束についた埃を取り、ウィッグを直す。

 女性の声を出せるように「あー、あ~?」と、調整し始める。


 黒田の声は一般男性と比べると高め。

 女性の声を出そうとすれば、少々違和感はあるが出せる。


「よしっ、それじゃ、行ってくるぞ」


「え、は、はい!」


 犬宮に行くことを伝え、二人は頷き合う。


「行ってらっしゃい。こっちはこっちで出来る事をやっておくよ。これもしっかりと預かっておくから、必要になった時、教えて」


「了解」


 犬宮が刀を見せ言うと、二人は拳をコツンとぶつけた。

 頷き合うと、黒田が犬宮の横を通り抜けた。


 心優も置いて行かれないように、犬宮の隣を通り抜けようとしたが、なぜか途中で手首を掴まれてしまった。


「っ、え、な、なんですか?」


「信三さんについては、必ずこっちで片づけるから。心優は心優の方を頑張って」


 口調はいつもと同じくマイペースだが、漆黒の瞳から放たれる眼光は普通では無い。


 慣れていない人だと足がすくみ、動けなくなってしまう程鋭い。

 殺気を向けられ慣れている心優すら一瞬、息を飲んだ。


「――――はい。こっちはこっちで、必ず作戦を遂行します。犬宮さんも、無理だけはしないでください」


「うん、”俺からしたら”の無理はしないよ」


「私から思う無理な行動もしないでください!」


「それじゃ、またね」


 心優の言葉に答える事はせず、犬宮は手首を離し、最古と共にその場から離れた。

 彼の背中を見つめ、心優は不安げに瞳を揺らす。


「……………………必ず、また探偵事務所で会いましょうね。犬宮さん」


 拳を強く握り、先に向かってしまった黒田の後ろを付いて行く。

 隣に来た心優の表情を見て、浅く息を吐いた。


「気合、十分みたいだな」


「当たり前です。この場を乗り越えないと、また黒×犬の妄想や、逆の妄想が出来ませんから。それに、今では相手が最古君でも可だと思っています、可愛い」


「…………犯罪者にはならないでね」


 ※


 犬宮が向かった先は、真矢家。

 今も陰陽師達が玄関先で群がっていた。


 だが、囲まれていたはずの信三が今はいない。

 屋敷の奥の方に身を潜めているのだろうと、安易に予想が出来る。


 犬宮も気づかれないように近くの電柱に身を顰め、陰陽師達がいない出入り口を探した。


「……………………」


 ――――鼻が利かない、陰陽師達の不愉快極まりない匂いが信三達の臭いをかき消してしまっている。


 眉間に皺を寄せ舌打ちを零す。

 不愉快な臭い、信三がいない事での焦り。


 犬宮は苛立ちを吐き出すように、黒いボサボサの髪を掻き、ため息を吐いた。

 その時、彼の後ろに人影が二人、姿を現した。


 苛立ちも募り、犬宮は気づかない。

 足音すらさせない人影は、犬宮のすぐ背後まで近寄る。


「――――しまっ」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 黒田と心優は、無事に巫女達に紛れ込むことが出来た。


 気配はしっかりと消しており、周りの人達はとしか思っていない。


 時々、黒田の事を怪しむ人がいるが、それはうまく口車に乗せ回避。

 今は、心優に教えてもらいながら巫女の仕事を行っている。


 ――――仕事、ではないんだけどね。


 黒田と心優は片手に箒を持ち、神社の周りを掃除するをしていた。


「黒田さん」


「周りの人がゴミ捨てに行った時にでも行こうか」


「はい」


 周りに聞こえないように確認し合い、掃除を進める。

 だが、黒田はめんどくさそうに、箒に体重をかけ、適当に掃いていた。


「しっかりしないと怪しまれますよ」


「めんどくさい」


「それは私も同じです。でも、私はこれ以上の仕事を数週間もし続けてきたんですよ。黒田さんはものの数分じゃないですか、しっかりやってくださいよ」


「いやだ」


「子供ですか……」


「はぁ」とため息を吐きながら石畳を掃いていると、心優の視界の端に見覚えのある巫女が映った。


「――――巴ちゃん?」


 心優は巴の後ろ姿を見て何かに気づき、箒を落とし駆け出した。


「っ、お、おい――」


「朔ちゃん、こっちの方もお願いできるかな」


「あ、は、はぁーい」


 黒田が慌てて追いかけようとしたが、他の巫女に呼び止められてしまい、ひきつらせた笑顔で従うしか出来なくなってしまった。


 咄嗟に中性的な声を出したことで怪しまれずに済んだが、心優とはぐれてしまった。


 心優の去って行った方向を見て眉を顰めるが、今ここで無茶な行動をとり身動きが取れなくなる方を懸念。

 

 苦笑を浮かべ、指示に従った。


「――――心優ちゃん、感情のままに動くなよ……」

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