第29話 再開と作戦

 口を押えられ、声を出す事が出来ず動けない心優。

 隣に立っている黒田は安心したような優しい笑みを浮かべ、現れた彼を見た。


「元気そう…………ではないみたいだが、無事を確認できて良かったぞ、賢」


 二人の後ろに立っていたのは、最古を抱えている犬宮。


 心優は犬宮と久しぶりに出会ったのもあり、思わず名前を呼ぼうとしてしまったところを止められた。


「確かに、元気ではない。その理由も話すけど、今はここから離れよう」


 犬宮が心優から手を離し、二人の横を通り歩く。


 黒田と心優も顔を見合せた後、足音に気を付けながら犬宮から離れないようについて行った。


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 事務所から離れた先の喫茶店に立ち寄り、四人は建物の奥の方で飲み物片手に話し合いを始めた。


「心優も黒田も無事みたいで良かった」


「それはお互い様だ。お前らが無事で安心したぞ。もう、襲われているかと思った」


 可愛いラテアートを楽しみながら黒田が問いかけ、ブラックコーヒーを一口飲み犬宮が小さく頷いた。


「一応、襲われる手前で全てを回避してたから、被害はない。運が良かっただけなんだけどさ」


「にしては、なんか……」


 犬宮を見て、黒田は首を傾げている。

 なぜ見られているのかわからない犬宮は眉を顰めつつ、「なに?」と問いかけた。


「いや、目元が赤いなぁと思って……。泣いた?」


「……………………」


「え、本当に泣いたの?」


「黙れ」


 今の反応で、犬宮が少し前に泣いていたことは黒田も心優もわかった。


 問いかけた黒田は、まさか本当に泣いていたとはとポカンと口をあんぐり。

 手に持っていたカップを下ろし、体を乗り出し犬宮の目元に指先を添えた。


「…………今まで泣いたことなんて、お前の姉さんが死んでしまった時だけだったのに」


「俺も驚いた。翔のおかげで色々吹っ切れたのかもしれない」


 黒田の手を払い、隣に座る最古を見る。

 頭を撫でてあげると、最古はいつものニコニコ顔で犬宮を見上げた。


 その笑顔に、犬宮もまた笑顔になる。

 微笑み合う二人を見て、黒田もつられるように微笑んだ。


 そんな温かい空間に一つ、この場にそぐわない空気を醸し出している人がいる。


「…………」

 

 黒田は顔を引き攣らせながら横に座っている心優を見た。


「――――心優ちゃん、興奮しているのはわかるけど、せめて鼻血は拭いて興奮の声を出すのはやめようか。抑えようとしているのはわかるけど、手の隙間から洩れているよ」


 心優は今までの三人のやり取りを見ていて、頭の中が完全なるBL状態。

 今までは黒田と犬宮の妄想を爆発させていたが、今は最古も真ん中に入っていた。


「最古君を子供にして、犬宮さんと黒田さんが夫婦。素敵な家族の出来上がりじゃなぁぁぁああい」


「さすがにそれはきついかなぁ~」


 冷静に突っ込みつつ、黒田はラテアートが崩れてしまったカフェオレを飲んだ。


「一旦、合流できたことは良かったが、今後の動きは決まっているのか?」


 心優のことはもう放っておこうと、黒田が犬宮に問いかけた。

 すると、最古から手を離し、真剣な表情に切り替わる。


「まず、二人の話を聞きたい。状況は悪化しているの?」


「悪化――――してはいるが、終わりは見えているぞ」


「どういう事?」


「これ、覚えているだろ?」


 二人の会話に、心優は気を引き締め頬をパンパンと叩き話に集中した。

 そんな心優の隣では、黒田が刀を取り出しテーブルに乗せる。


「これって、もしかして呪異?」


「正解」


「会いに行ったの?」


「そうそう、お願いしたらすぐに了承してくれた」


「黒田だからこそできる荒業だね」


「賢とも話したがっていたぞ。すべてが終わった時、酒に付き合ってやれ」


「……………………俺は珈琲でいい」


 酒の話を出した瞬間、何故か犬宮は肩を落とし目を逸らす。

 そんな彼を見て黒田は、くすくすと笑った。


 二人の様子に心優は、またしても頭の中にBLが浮上するが、すぐに首を振りかき消した。


「それで、どうするんですか? 早くしないと、私達の場所、ばれるんじゃ……」


 心優が言うと、二人は目を丸くした。


「ま、まさか。BLを妄想している心優ちゃんが……」


「そんなこと言うなんてね。熱が出る予兆かもしれない、早く事件解決するため頑張ろうか」


「そうだな」


 二人はここから真面目に話し合い始め、心優はポカン。

 だがすぐに理解し、顔を赤くした。


「……………………ど、どういう意味ですかあぁぁぁぁああああ!!」

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