第9話 誰が呼んだ?
御崎の実家で事件を聞いた叔父が、心配そうに顔を出して「なんかずっとケチがつくな」とボヤく。
そう、納骨にもケチがついた。
一つの事が気になった俺は、墓が決まった事、納骨日が決まった事を富田の祖父母に連絡をした。
俺だとわかると開口一番迷惑そうな声で、「どうかした?」と言われる。
普通ならそこで終わりにするが、それでも要件を伝えると「この前も言ったが、そっちでやってくれればいい、行けないから教えないでいい」と言われる。
そこはわかっていた。
だが、気になっていた事は、祖父母にしか答えられない。
「あの、葬儀の日なんですが、髙成さんを呼んだのは何故ですか?」
「何を言ってるの?」
「この前も髙成さんを紹介してもらいましたけど、父と懇意にしていたのは、群馬豪さんや板橋京子さんだったと担任の松崎先生から聞きました」
「松崎?ああ、あの」
この一言の嫌そうな声に全てがあったと思えた。
そんな祖母が「群馬とか板橋なんて子は知らないわよ。髙成くんは小学校からのお友達だから知ってただけよ」と言う。
「じゃあ連絡先を持っていたんですね。それで声をかけてくれた…」
この瞬間、祖母は一番深いため息の後で、「はぁ?そんな事する訳ないでしょ。髙成くんの連絡先なんて持ってないわよ。アンタが呼んだんでしょ?」と言い、「もう話す事もないわよね?こっちも何も連絡する気はない。今まで通り、もう会う事もない」と続けると、返事を待つ事なく祖母である人は電話を切った。
何が彼女をそこまでしてしまうのか。
愛がないところから生まれた父を、そんなに疎ましく思っているのは何故なんだろう。
離婚をして華々しい人生を送ろうと想ったのに、足枷のように生まれてきた父。
自分の人生の汚点であり、マイナス要素に思えた父を絶対悪にしたてて夫婦仲を誤魔化し、部屋すらない自宅のローンを背負わせようとしたのに、父が逃げ出したからだろうか?
その為に身の丈に合わないローンでも払っているのだろうか?
なんであれ、あの人から父が生まれてきたと思うと信じられなかった。
だが、今はそれではない。
誰が髙成卓を呼んだ?
母ではない。
勿論俺でもない。
丁度そこに空き巣の結果を伝える目的で、刑事の豊島一樹から電話が来た。
「空き巣は指紋なし、足跡にしてもホームセンターで大量流通してる品だから、追えない感じだ」
人懐こいというか、距離感を詰めるのが上手い感じの豊島刑事に、意見をもらいたくて「今少し話せますか?」と聞くと、「構わないよ。どうかしたかい?」と聞かれる。
「変なんです」
「変?具体的に言える?抽象的になる?」
俺は、説明をしがてら、自分の中にある疑問を形にしていく。
「ふむ。葬儀の場に居た髙成卓氏を誰が呼んだのかわからない」
「はい」
「お父様は過去と決別されていて、連絡先を誰にも知らせていなかった」
「はい」
「そして本来懇意にしていたのは群馬豪氏、旧姓板橋京子氏、亡くなった赤羽駿氏。それなのに、葬儀の場にはその3人ではなく、髙成卓氏とその友人達が観光気分で来ていた」
「はい」
「君が髙成卓氏を知ったのは、お父様のご実家でお婆様から髙成卓氏の名前を聞いたからで、連絡先は参列者の名簿を見て、そこに書かれていた彼のスマートフォンの電話番号にかける。後は前に聞いた通りだね?」
「そうです」
「ふむ。可能性としては、お婆様が会話を面倒に思い、髙成卓氏の連絡先を知っていたのに、知らないと嘘をつく。もしくはお父様が実は髙成卓氏と懇意にしていて、亡くなる前に連絡を貰っていた」
「それはない気がするんです」
「まあ、そこの裏付けには無くなったお父様のスマートフォンが必要だね」
「髙成さんのスマートフォンは?」
「この内容では令状なんて取れないさ。それにあの人は…」
「はい?」
豊島刑事は嫌そうに「煙にまこうとすると言うか、妙に知識だけはあってね。法の目を抜くと言っていいのかな、抜け道を見つけるのがうまいのさ、世間話からスマートフォンが見たいと言っても、向こうから令状の話なんかを持ち出されて、警戒されてクレームを出されたら、それこそ困ってしまう」と言った。
確かにあの感じを思い出すと、それくらいはしてきそうだった。
「だが有益な情報だね。ありがとう。こちらとしても、なんとかしたいから助かるよ。赤羽駿さんも市川明彦さんもね」
「事件なんですか?」
「捜査情報は漏らせないよ。まあ、おかしな点がありそうなのに、何もないのが気になる。ただの勘だがね。とにかく、俺はご遺族の為にもハッキリとしたいのさ」
豊島刑事はそう言って電話を切る。
俺は母さんには捜査の進捗を話し、水住さんには、髙成卓がどうやって葬儀に来たのかがわからないと伝えておいた。
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