第8話 第三の不幸。

あのメッセージの日から髙成卓を無視した。

最初の頃は、[そろそろ返信をしたまえ]だの、[スマホは見つかったかな?]としつこく、水住さんに経緯を説明すると、「富田くんにしたみたいにできると思ったのね。切り捨てていいのよ]と入って来た後で、[私も早く切り捨てたい]と入ってきた。


詳しく聞くと、赤羽さんの葬儀の場で繋がりができてしまい、水住さんが住む町屋のご飯屋さんを紹介しろとか、聞いてもいない町屋の逸話を話してきたり、町屋には斎場があるからと言って、斎場にまつわる怪談を送ってきたりとうるさいらしい。


水住さんはあえて女性目線での返信を心がけていて、あえて髙成卓の好みを外す事でフェードアウトを狙っている。



父さんの納骨は遅れ気味で、それはお墓選びに難儀をしていて、叔父さん達は母さんの実家の御崎のお墓に父さんを入れてあげたらどうか、家族なんだから遠慮はいらないと言ってくれたが、俺もいるので富田の墓を買う事にした。


案外物入りで、それでも父さんは贅沢をしなかったので墓代もなんとかなる。


ようやくお墓が決まり、納骨の日取りが決まった頃、今度は市川明彦が亡くなった。

今回も事件事故の両方から捜査をされていて、死因は水死、またスマホは見つかっていなかった。


立て続けの訃報に首を傾げてしまう。

水住さんと群馬さんは、本来ならいい思い出もなく、関わりたくない事からお通夜にも行きたくないのだが、運悪く赤羽さんの葬儀で髙成卓と再会してしまったせいで、連絡先の交換をしていたので、無視をすることもできずに参列する。


会いたくない人との呼び戻したくない縁も出来てしまったとボヤいていた。


後は流石に立て続けの訃報に刑事が来ていたとの事で、声をかけられて少し質問に答えたと言う。


だが、何を聞かれても、地元を離れて疎遠になっていたからわからない。

偶然、富田繋と赤羽駿の訃報から縁ができてしまい参列したが、学生時代の事しか知らない。


そう答えたら警察は県外、遠方で起きた父さんの訃報と繋がっている事を把握しておらずに、ウチまで東京の刑事がやってくる事になった。


警察としても父さんの件を知ると、水死と無くなったスマートフォンと不審な共通点が見えてくる。


更に言えば、家族の色眼鏡と言われればそれまでだが、父さんには死の兆候は無かった。



「息子さん…、好生さんは、今回の市川明彦さんの事をどうやって知りましたか?赤羽駿さんの事も…」と刑事に聞かれ、赤羽駿さんが父の為にウチまで群馬豪さんと水住京子さんときてくれた事、そもそも水住京子さんとは松崎茂先生の紹介で会った事。


そもそもの話だが、父の死で初めて会った祖父母。

遺品がないか父の実家に就活のついでに顔を出すと、何もなかった代わりに、祖父母から父の友達だと言われて、髙成卓の名前を聞き、髙成卓は葬儀に参列してくれていたので、連絡をしてみた事、髙成卓の紹介で松崎茂先生に会えた話をする。


「では、水住京子さんの紹介で、赤羽駿さんに会ったのですね。富田さんは赤羽さんのご葬儀には?」

「水住さんの勧めで辞退しました」


「それは何故ですか?」

「松崎先生や水住さんに聞いてもらえればわかる事ですが、父さんは地元で酷い扱いを受けていました。父さんの息子として同じ扱いをしても構わないと思われても困るのと…」


「のと?」

「髙成卓さんは、少し人間的に難のある方で、父さんの死を皆で集まる為の口実にしたりしていたので、今も父さんの見つからないスマートフォンにはミステリーを感じると言い、スマートフォンの所在を知りたがるメッセージが来ます。なので会わない方が良いだろうと言ってもらって従いました」


証拠のように髙成卓とのメッセージを見せると、「写真、撮らせてください」と言って刑事がスマートフォンでそれを撮影して帰って行った。


水住さんには刑事さんとの話を報告して、繋がりを遡って髙成卓の名前が出た事と、それを髙成卓に伝えるべきかと確認すると、水住さんは[放っておいて平気よ。そこで話を戻すと、お父さんみたいにしつこく付き纏われるわ]と返事をくれた。


まあ形式的なものだし、赤羽さんの事も、何も知らない市川明彦の事も関係ないので、放っておけば日常に戻れるだろうと思いながら、刑事が置いていった名刺を見る。


大塚直人おおつか なおと豊島一樹としま かずき

まあ二度と連絡をする事もないだろう。


だが、すぐに名刺を捨てるのはどうも抵抗があったので部屋に置いておく。



まさかすぐに必要になるとは思わなかった。

納骨日に家に泥棒が入った。


雨どいを伝って2階から侵入した泥棒は、物色のみで何も盗まなかった。

家中ひっくり返されていたが何も盗まれていなかった。


嫌な気持ちで納骨を終えて帰ってきたらこのコンボで、頭が痛くなりながら地元警察に加えて、先日貰った名刺で若かった方の豊島一樹に、「関係あるかわかりませんが、今、泥棒に入られました。タンスから何から中身を全部出されてますが、財布も通帳も無事です。見た感じ何も盗まれていないのに、家中ひっくり返されています。通報はしてあります」と告げると、すぐに警察官がわんさかとやって来て証拠集めをしてくれた。


家が工務店で、高卒で働いている友達に、侵入する為に割られた窓ガラスを手配すると、休日でもすぐに来てくれて、警察の許可を得て交換してくれる。


家の惨状を見て「酷いな」と漏らす友人に、「プロかな?」と聞くと、「微妙だな。最近じゃ、インターネットでなんでも手に入る時代だからな、工具にしても、店なら警察さんが追えても、オークションやフリーマーケットだと、追うのに時間もかかるだろ?まあプロって言えばプロなのかもな」と答える。


「プロかも?」

「雨どいを伝って2階に上がるなんて余程だろ?」

「確かに」


この日は貴重品と身の回りの最低限の荷物だけ持って御崎の実家を頼る。

さっき別れたばかりの祖父母に会うのは微妙で、皆で変な顔をしてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る