第10話 スマートフォンのありか。

納骨から1ヶ月と少しが過ぎた。

季節は夏になっていた。


依然スマートフォンは見つからず、捜査の進展もなさそうで、水住さん達との連絡も途絶えた。


日常に戻るべきなのに、どうしても就活に身が入らずに居ると、ある土曜日の朝に知らない電話番号から着信がきた。


なんとなくネット回線なんかのセールスだったら嫌だと思ったが、父さんのことが解決していない以上、手がかりは捨てたくない。


意を決して電話を取ると、「あ、出た出た。おはようヨシオくん」と軽いノリで言われる。


知らない番号、知らない相手。

だが相手は俺を知っていて、明るくて軽薄そうな感じもする声で、「ケイってば酷いよね。まあ、ケイの観察眼は本物だよね。多分ヨシオくんがスマホの側にいたら、悩んで5コールくらいで電話に出るって書いてたし」と言う。


ケイ?

繋?

父さん?



「あの!?父さんの!?」

「偉い。キチンと反応したね。でも今はダメ。今すぐ御崎のご実家にある固定電話から、今のこの電話番号に電話をしなさい。すぐよ」


俺は混乱しながら「え?御崎の?」と聞き返すと、女の人は「ケイが、ヨシオの自転車なら30分。ユキコの運転なら20分はかからないはずだから、ユキコが憔悴していなかったら、早い方が良い。任せたってさ。じゃあ、急ぎなさい」と言って電話を切ってしまう。


俺は母さんを急かして御崎の実家に連れて行く。

下手に車中では言いたくなくて、御崎の家に着くと説明しながら固定電話を借りて、電話をかけると相手はすぐに出た。


女は「早いね。ユキコさんは運転ができるくらい元気で安心したよ」と言うと、涙声で「ケイの事を知りたい?私も知りたい。助けて」と言った。


「あの?何のことだかわからないです!」

「そうだよね。この電話はスピーカーとかにできる?」


子機にはハンズフリーがあったので使うと、「ごめんね。ここまではケイがくれた手紙に従ったの。多分あの家は盗聴されてるんだって、それが固定電話なのか、コンセントなのか、どこにあるのかわからないって、だからおそらく安全な御崎の実家にすぐに来てもらって、電話の必要があったんだってさ」と説明される。


「盗聴?」

「そう。あ、私の名前からだよね。会ったことは無いけど、ケイから話は聞いてるし、ケイもユキコさんには話してるって言ってた。私の名前は後藤舞ごとうまい。ユキコさん、この度はご愁傷様です。お悔やみ申し上げます」


後藤舞の言葉に、母さんは「やっぱり後藤さんだったのね。今は藤堂さんって聞いてるわ。連絡をくれてありがとうございます。主人に何があったのか、ご存知なのね?」と聞き返す。


藤堂舞とうどうまいは「ええ。ケイは悩みに悩んで川に身を投げた。そして、身を投げる前、私に手紙と共に、ケイのスマートフォンを私に送ってきた。ケイとの約束を守って一度も触れてない。ただ安全な場所で、約3ヶ月預かっただけ。ここから先は早い方がいいって、ケイが言ってたから持って行きたいの。どこか安全な場所で会いたい。会えないかな?」と言った。


父さんのスマートフォンがある?

驚く俺に「誰にも知らせず、会うのは私とユキコさん、後はヨシオくんでってケイに言われてる」と藤堂舞は言い、「怪しむのはわかってる。定時連絡でも何でも途切れたら通報していい。私の電話からでもヨシオくんの電話からでもいいから、位置を探ってくればいいよ」と続けた。


俺と母さんは、藤堂舞の希望に沿う形で、熱海駅で待ち合わせる事にした。


かなり遠いが、母さんから「前に聞いた話だと藤堂さんは岐阜方面に住んでいるから、真ん中ら辺を選んでくれたのよ」と言われて納得をした。


熱海に着くと2時になっていた。

藤堂舞さんは宿を取っていて、「ここなら多分安全」と言われて通されると、中には高校生くらいの女の子も居る。

長いストレートヘアが清楚感を出していて可愛らしいが、3人で会うのにもう1人いる事を訝しんでしまう。


「スマホを守らせてたし、ケイの願いは3人だったけど、娘の唯も巻き込まれてるから、ケイならしゃーなしって言うわ」


巻き込まれた?

何のことかわからずに、とりあえず目の前の女の子と挨拶を交わす。

巻き込まれた割には本人は嫌そうではなく、「藤堂唯です。この度はご愁傷様です。ご冥福をお祈りします」と言ってくれた。


「ありがとう。高校二年生よね?吹奏楽部で頑張られてるのよね?」

「母さん?」


「ケイはキチンと話してたようだね。私もヨシオくんの事は聞いてるよ。就活はどうかな?」

「え?」

「ふふ。お父さんはキチンと近況を伝えられる人が居たのよ」


話が始まる前に横道にそれてしまう。

それも仕方ない。

藤堂舞さんは今年52歳、バツイチで父さんの初めてできた彼女だった。


「私もケイも若かったんだよねぇ」

「お母さん」


「平気さ、父さんも全部知ってる。前の旦那は勝手にケイと私の仲を邪推して離れて行ったが、それを知って『俺はそんな事は言わん!』って言って再婚したんだ。今更やっぱりなんて言わないだろ?」

「私も亡くなった主人から、後藤舞さんという人との馴れ初めと結末、現在までの近況は聞いていたから平気よ」


俺は「マジか」と言うと唯さんも頷いていた。

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