第44話 暗闇の中のシーソー体験

涼子は「虚無堂」で一風変わったイベント「暗闇の中のシーソー体験」を企画した。このイベントでは、参加者が完全な暗闇の中でシーソーに乗ることにより、平衡感覚と信頼の構築を探求し、通常では気づかない感覚を体験することを目的としていた。


イベントの準備として、涼子は虚無堂の広いスペースに複数のシーソーを設置し、部屋全体を完全な暗闇にした。各シーソーは安全に使用できるように設計されており、暗闇の中でも利用者が安心して楽しめるように細心の注意が払われていた。


参加者たちはペアに分けられ、一人ずつ静かに部屋に案内され、シーソーに座る位置についた。涼子は、ペアの一方が上にいる間はもう一方が下にいるというシーソーの基本的な動作を説明し、互いにコミュニケーションを取りながらバランスを取ることの重要性を強調した。


暗闇の中でシーソーが動き始めると、参加者たちは視覚情報がない中で自分の体の位置や動きをより敏感に感じることになった。互いの体重と動きを感じ取りながら、ペアはバランスをとるために声を掛け合った。


このプロセスは、参加者にとって通常のシーソー体験とは異なるもので、暗闇がもたらす不確実性の中で互いに信頼関係を築く必要があった。ペアが協力してシーソーをコントロールすることで、お互いの動きに敏感になり、コミュニケーションが向上した。


シーソー体験が終了すると、涼子は徐々に部屋の明かりを点け、参加者たちを現実に戻した。体験後、参加者たちは自分たちが経験した感覚や、暗闇の中で感じた他者とのつながりについて話し合った。多くの人が「暗闇の中でのシーソーは、互いに依存しながらバランスを取る練習が、お互いへの理解を深めるのに役立った」と感想を述べた。


涼子はこの「暗闇の中のシーソー体験」が参加者に与えた新しい感覚と協力の大切さに満足し、今後も虚無堂でこのような創造的なイベントを続けることを決意した。この体験が参加者たちにとって、日常生活での人間関係やコミュニケーションのあり方に新たな洞察を提供したことを願いながら、涼子は次のプログラムの準備を始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る