第17話 暗闇の中の茶会

涼子は「虚無堂」のイベントをさらに発展させるべく、新たな試みとして「暗闇の中の茶会」を企画した。このイベントは、伝統的な日本の茶道を基にしており、暗闇の中でのお茶の儀式を通じて、参加者に心の静けさと集中を促す体験を提供することを目指していた。


イベントの日、涼子は虚無堂を日本の茶室のように装飾し、参加者たちが暗闇の中でも心地よく感じられるよう、畳を敷き詰め、部屋の香りを調整した。暗闇の中、参加者は茶会の場所に静かに導かれ、座布団に着席した。


茶道の先生である松井先生が、暗闇の中で茶道の手順を丁寧に説明し始めた。彼女の声は穏やかで、その説明は参加者をゆっくりと茶道の世界へと導いた。茶碗を手に取り、茶筅で抹茶を点てる際の手の動きや、茶を味わう際の心持ちを、先生は詳細に解説した。


参加者たちは一人ずつ、暗闇の中で自分で抹茶を点てる体験をした。視覚が奪われることで、抹茶の香りや茶碗の感触、茶筅の触れる音がいつもより際立ち、それぞれの感覚が研ぎ澄まされた。抹茶の苦味と甘味が口の中でひときわ明瞭に感じられ、その味わいは新鮮で深いものであった。


茶会が進むにつれ、参加者たちは暗闇がもたらす静寂の中で自己の内面と向き合い、外界からの雑音が遮断されることの意味を実感した。涼子もまた参加し、彼女自身がどれだけ日々の生活で視覚に頼っているかを感じ取りながら、その他の感覚に意識を向けることの大切さを再認識した。


茶会の終了後、参加者たちは暗闇の中での茶会がもたらした精神的な落ち着きと集中を共有した。多くの人が「暗闇の中での茶会は、ただのお茶を楽しむだけではなく、自己と深く対話する時間であった」と感想を述べた。


涼子はこのイベントを通じて、参加者たちが日常から離れ、心を落ち着けることの大切さを再確認した。そして、虚無堂が提供する場としての役割が、ただの集まりの場ではなく、心と体に平和をもたらす空間であることを改めて感じた。この体験が参加者一人ひとりの心に静かな余響を与えることを願いながら、涼子は次のイベントを計画することに胸を膨らませた。

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