第16話 暗闇の滑り台

涼子は「虚無堂」でのイベントを常に革新的に進化させ、参加者に忘れがたい体験を提供し続けたいと考えていた。今回の企画は、特にユニークで刺激的なものになる予定だった。その名も「暗闇の滑り台」。このイベントは、参加者が暗闇の中で滑り台を滑る体験を通じて、子供の頃の無邪気な喜びやスリルを再発見することを目指していた。


イベントの準備のために、涼子は近くの公園にある大きな滑り台を借りる手配をした。そして、イベント当日の夜、その滑り台は特別に遮光カバーで覆われ、完全な暗闇の中で滑ることができるようになった。参加者たちは一つの光もない中で、ただ感覚だけを頼りに滑るのだ。


参加者たちが暗闇の滑り台の場所に到着すると、涼子は彼らに安全上の注意と、この体験を通じて得られるであろう感覚についての簡単な説明を行った。そして、一人ずつ滑り台の頂点へと導かれた。


暗闇の中、滑り台の頂点に立つと、高揚感と同時に幼い頃に感じた冒険心が蘇ってきた。一人ずつの順番で、参加者は滑り台を滑り始めた。視覚が使えない中での滑降は、速さや風の感じ方が普段とは異なり、新鮮で刺激的な体験となった。


参加者の中には叫び声を上げながら滑る人もいれば、静かに感覚を楽しむ人もいた。涼子自身もこの体験に参加し、暗闇の中での滑降がもたらす自由な感覚に心からの笑みを浮かべた。


滑り終えた後、参加者たちは一つの集まり場に集まり、それぞれが感じたことを語り合った。多くの人が子供の頃の記憶を思い出し、何年も忘れていた純粋な喜びを再び感じ取ることができたと話した。この共有が、参加者同士の間に新たな絆を生み出した。


イベントの終わりに涼子は、今回の体験が参加者にどのような意味を持ったかを振り返りながら、感謝の言葉を述べた。「今夜、私たちは暗闇の中で、ただ滑るというシンプルな行為が、いかに多くの感情を解放するかを体験しました。この滑り台は、私たちが日常で忘れがちな感覚や記憶を呼び覚ますための道具でした。」


参加者たちは、この一夜限りの冒険が彼らの心に新たな光をもたらしたことを実感しながら、虚無堂を後にした。涼子は星空の下、次に何を企画するか既に考え始めていた。このような体験が人々の生活に何をもたらすか、その可能性に胸を躍らせていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る