六十言目 柚木原さんと文化祭準備
「机踊り場持ってくよー!」
「調理のシフト入ってるやつ検便の申し込み用紙取り来いよー!」
「ラジオトークって時間いつだっけ?!」
ウチの学校は年間行事に力を入れてる。体育祭、球技大会、修学旅行、林間学校、東京研修、横浜研修……まあ、月1か2くらいでそういう行事が入ってくるのだが、その中でも一番力が入ってるのが文化祭だ。準備期間は2ヶ月くらいあるし、事前準備で一週間自由登校になる。さらには先生達も自分達で出し物があるため大部分が生徒の自主性に委ねられたりもする。そして何より……
「おい!B組の野球部全員アーニャらしいぞ!」
「スパイファミリーマジか?!」
「すまんターニャだった!」
「幼女戦記じゃねえか!」
「今年の物理部は藤子・F・不二雄だって。オバQ作ってた」
「それはすごいナリね」
「それコロ助じゃん」
「おっ、キュアハートだ!」
「そうそう!今10年越しに夢叶えてるの!」
そう。全員コスプレなのである。割と長い間全員コスプレが伝統として受け継がれているらしい。かく言う私も現在軍服ツインドリル。UTAUの方。「冷静になればなんでコスプレなんだろう……」と呟きながらドキュメントでメニュー表を作っていると、「気になりますか?」と背中から声を掛けられた。
「あ、霜月さん。カーマなんだね」
「はい。今年の生徒会はビースト統一ですから」
「なんかもうそれが文化祭の方針を示してるよね」
「ま、そんな感じですね。で、コスプレの理由ですけど、この前「7日戦線」の話はしたじゃないですか?実はコスプレってあの流れなんです」
「あの話そんな続くの?」
「はい。その年の文化祭準備期間のことなんですけど、恨みを抱えた英語科の先生達が体育館を制圧したんですね。そこで奪還作戦が有志の生徒によって行われたんですけど、それで活躍したのが当時東方紅魔郷が発売されたばっかりのタイミングで東方展をやってたパソコン部だったんです」
「あ、その人達がコスプレしてたってこと?」
「そういうことです。何でも大暴れしたにも関わらずコスプレのクオリティが高すぎて個人の特定まで至らなかったとか。そしてそれからやらかした時に個人の特定が防げるって理由でコスプレが爆流行り。現在に至るまで文化として受け継がれてます」
「想像の3倍くらいカスな理由だった」
「文化の始まりなんてそんなもんです。ところで彩花ちゃんは?私初音ミクのボカロおっぱい拝みに来たんですが」
「今トイレ行ってるよ。タトゥーシール貼りに行った。ほら、私も貼ってもらったんだ」
そう言って左腕を見せると、霜月さんは「へえ」と興味深そうに突っついた。
「最近のってこんなクオリティ高いんですね」
「うん。柚木原さんが作ってくれたんだ」
「まああの子おっぱい以外もなんでも持ってますからね」
「それじゃ、私はみっぱい拝んできまーす」と教室を去っていく霜月さん。私は再びパソコンを開き、メニュー表制作を再開した。かき氷、フランクフルト、フライドポテト、ハンバーガー、たこ焼き、タピオカミルクティーetc……。
「あ、テトー、醤油ラーメン追加ねー」
「はーい」
混沌としていくメニュー表。そしてこの混沌を導いた張本人である富士野さんは開拓者姿でバットを振り回している。そしてそれをパシャパシャする水色ツインテール。石川由依に釣られたんだろうな。
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