五十九言目 柚木原さんと花火
「ね、咲楽。花火の先っぽのひらひらって千切るらしいよ」
「そうなんだ。導火線かと思った」
「咲楽ー!柚木原さんー!パパがジャーキーとチーかまくれたー!」
「お、良いじゃん。花火で炙る?」
「薬品の味とかしそうだね。あ、炎色反応だから金属か」
「ゲーミングビーフジャーキー嫌じゃね?」
おやつを片手につまみながら、私達は花火に勤しんでいた。川の流れる音、あとお父さん達の話し声が小さく聞こえるくらいの静かで暗い河川敷にパチパチという花火の音が響いている。
「手持ち花火ってさぁ」
「何?柚木原さん」
「なんでこんなに雑草燃やしたくなるんだろうね」
「あ、分かる!」
「否定はしないけど」
「燃え広がったらマズいのは分かってるんだけどさ、やっぱ燃やしちゃうし燃え広がらないのが少し腹立つんだよね」
そして柚木原さんはジャーキーを口へ押し込むと、もう1本の手持ち花火を左手に持ってタバコの火を移すみたいに右手の花火で火を点ける。
「お、二刀流じゃん」
「高火力で草を焼きたい」
「柚木原さん溶接でもしてるの?」
「興味持ったことはあるけど」
「あるんだ」
そんなことを話している内に柚木原さんの両手の花火は終わりを迎える。そして柚木原さんはバケツに花火を捨てながら何かを思いついたらしく、欲張って花火を3本取ってくると「火ちょうだい」と私の方へ寄ってくる。そして私の花火から火を移してあげると柚木原さんは少し駆け足で離れると左手に赤と黄色の花火、右手に白の花火を持って徐ろに構えた。
「ものまねやりまーす」
そう言って柚木原さんは白い花火が煌めく右手を掲げる。「なんか見覚えのある色じゃね?」「うん、見覚えあるよね」と私は富士野さんと言葉を交わす。そして柚木原さんは少し息を入れるとその腕を振り始めた。
「アクアのヲタ芸」
「やっぱり」
「あれB小町色だもんね」
「歌う?」
「じゃあウチMEMちょパートやんわ」
「ルビーパートやるよ」
「なら私かなちゃん?」
「あ、柚木原さんも歌うんだ」
そして口ずさむ「サインはB」に合わせて踊る柚木原さん。途中で持ってる花火を替えてあげたり、手前に噴き出し花火を置いたりしてあげるとそれだけでなんかもう凄い映像が撮れる。「万バズ出来そうなの独占するのなんか贅沢ー」と笑う富士野さんは見やすく調整した3分の映像をグループラインに送ってくる。
「わ、よく撮れてるね」
「っていうか柚木原さん、踊りながらでも音程外さないのヤバ過ぎ。天才かな?」
「完璧美少女だけど」
「バラしたら死にそうだよね、柚木原さん」
「でも咲楽と馨子より私の方が社会的信頼あるよ?」
「ヤバ。脅しじゃん」
そしてなんかもう色々と面倒になってきた私達は適当に置くタイプの花火を並べてまとめて火を点けようということにした。燃え残った全てに、みたいな感じで。一応万が一周りが燃えないように別の容器とかに水も沢山汲んできた。
「こういうのってまとめてやっちゃ駄目って書いてあるよね」
「まあ良いでしょ。花火はパワーだぜ」
「普通の花火職人じゃん」
そうしてまとめた特大花火はもはや花火というよりも火柱。私達はちょっと眩しいくらいのそれを眺めていた。
「残りって何あるっけ?」
「手持ちと……あ、線香花火やってないね」
「じゃあやろっか……って、無くない?」
「ホントだ。っていうかもうあの置き花火で最後じゃね?」
「でも流石に線香は残してると思うんだけど……」
そう思ってふとお父さん達の方を見ると、そこには3人揃ってしゃがんで線香花火に勤しむお父さん達の姿があった。
「一番最初に落ちた人がこの後の居酒屋奢りですよ」
「ああ。無風だから長引きそうだな」
「別に僕が出しても良いんだけどね。せっかくならこういうのも悪くない」
「ね、柚木原さん、富士野さん」
「うん、ウチもおんなじこと言いたい」
「……あっちの方がエモくない?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます