二十一言目 柚木原さんとお使い
「咲楽、帰りジャスコ寄って良い?」
「良いよ」
どうやらお使いを頼まれたらしい柚木原さん。イオンに変わったのってもう十年くらい前のはずなのに、柚木原さんは頑なにジャスコと呼んでいる。
「それで、何買うの?」
「うーん、色々?」
「曖昧だね」
「うん。ほら」
そう言って柚木原さんは柚木原さんのお母さんとのLINEを見せてきた。「急募・晩御飯御使求ム」と一言だけ送られてきていた。確かにめちゃめちゃ曖昧だ。予算すら書いてない。
「ね?ブラキ炭鉱みたいでしょ?」
「そっち本題なんだ」
「冗談。それで、一人じゃ手が足りないから手伝ってほしくて」
「そういうことなら良いよ」
「わーい。嬉しすぎてウレタンになりそう」
「有機物超越しないでよ」
そして私達はホームルームが終わるなり近所の、私と柚木原さん家の間くらいのイオンモールへ直行した。
◇◇◇
「それでさ、柚木原さん。今日の晩御飯とか決まってるの?」
「ううん。何にも」
「聞かなくてもいいの?」
「うん。材料さえあれば作ってくれるし」
お母さんもハイスペック側だった。遺伝か。多分両親のいいところ全部引っ張ってきたんだろうな柚木原さん。
「ねえ、咲楽。母乳と涙と血液って全部一緒らしいよ?」
「え、それホント?」
「うん。ところで話は変わるんだけど、私咲楽の血か涙飲みたいな」
「この流れだとド直球の下ネタじゃん。そんな妥協案みたいに言われても」
「あー、確かに血だとGの方になっちゃうね」
「普通のR-18でもダメなんだって」
「じゃあ涙?でも私曇らせダメなんだよね」
「なんで勝手に意見出して勝手に嫌がってんのさ」
そう言って「はぁ」と私がため息を吐くと「でもその顔は好きだよ?」と柚木原さんはいたずらっぽく笑う。こういう時に限って完璧美少女してくるのは、少しずるい。
◇◇◇
「……行ったね、柚木原さん」
「まあねー」
カゴから少し溢れそうなくらいの牛肉のパックやら、もやし、えのきなどを積んだ柚木原さん。どうやら今日の晩御飯はしゃぶしゃぶらしい。やっぱりノーパンしゃぶしゃぶの話はしていた。
「もしジョルノが「チップスター」に憧れてたらやっぱりヤマザキビスケットに就職してたのかな」
「あまりにも脈絡ないね」
「しょうがないよ、思いついたらすぐに言いたいんだもん。……あ、一週間ほぼ休める薬、GO金剤」
「それ欲しいな」
「そう?私は咲楽に会えなくなるからいらないけど」
「何このトラップ。っていうか私達普通に休みも遊び行ってるじゃん」
「そっか。なら私も欲しいな」
「手のひらクルクルだ」
そんなこんなで買い物を終えたらしい柚木原さん。「お礼になんか奢るよ」と柚木原さんはおやつコーナーの方へと歩いていく。せっかくだし、甘いものも欲しいしと私はそれに甘えることにした。
「咲楽何にする?」
「うーん、今はフルーツ系がいいかなぁ。グミで。……タフグミとか……」
「なにっ」
「やっぱ無しで。アポロチョコにする」
「しゃあっ アポロ・チョコ」
「柚木原さん」
「なんでタフって十年くらい前からずっと1000万部なんだろうね」
「多分禁句だよ柚木原さん」
そして柚木原さんはアポロチョコのデカいやつを二つカゴに放り込むと、セルフレジへ向かった。「レジの方が早くない?」と問い掛けると「この手間が楽しいんじゃん」と彼女は笑った。
◇◇◇
「あー、楽しかった」
「お疲れ様、柚木原さん」
「ついてきてくれてありがとね、咲楽。はいこれ」
「あ、ありがと」
そして柚木原さんからアポロチョコを受け取ると、私はその場で別れようとした。けれど、柚木原さんは「あ!」と言って私に提案した。
「咲楽、せっかくなら御飯食べてかない?」
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