十九言目 柚木原さんとプール
「夏だ!太陽だ!水着だー!」
そう言って更衣室を出るなりはしゃぎだす柚木原さん。私達は少し遠出して、リゾートスパ的なプールを訪れていた。ちなみに柚木原さんからは、あわや土下座するんじゃないかというレベルで「一緒にプール行こうよー」とかなり強めにねだられた。
「わー、やっぱ清少納言ってセンスないよ。夏は水着って相場決まってるのにね」
「千年越しにディスる必要あった?」
夏は人を解放的にするというのは事実らしく、人もそれなりにいるのに柚木原さんは楽しそうに喋っている。身体のラインを隠そうともしない黒ビキニにラッシュガード、それと浮き輪と厳つい一眼レフ。「やっぱ思い出って撮っときたいじゃん?」とか言っているが、さっきから私のことばっか撮ってるような気がする。
「あー、咲楽の競泳水着えっちぃなぁ……」
「柚木原さんそれワンチャン盗撮だからね?」
「私の咲楽はそんなんで訴えたりしないもーん」
そう言って「わーこれめっちゃおっぱいおっきく見える」とか写真を厳選しながら歩く柚木原さん。「プール入らないの?」と聞くと「これ防水じゃないんだよね」と彼女は答える。なんで持ってきた?
「うそうそ冗談。ちゃんと防水だよ。水も滴る良い咲楽撮りたいもんね」
「まあいいや。取り敢えずあっちの流れるプール行こうよ」
「いいね。あと私あれも良いな。波のやつ」
「あれも確かそっちの方だよ」
そして私達は途中のキッチンカーでフランクフルトやらたこ焼きやらを買って軽い昼食を済ませると、流れるプールの方へ移動した。
「それでさぁ、太陽を盗んだ男達って日ー盗るズだよね」
「脈絡なさすぎない?なんでアヴァロンルフェからその話行った?」
「いやぁ、ガウェイン強かったしなぁ」
「それキャメロットじゃん」
「あのー!そこのお姉さん達ー!」
そして割と広い敷地で迷いながら、ようやく流れるプールが見えたところで私達は誰かに呼び止められた。振り返るとテレビカメラ。どうやら朝のバラエティ番組の街頭インタビュー的な奴のようだった。
「マズい」と直感した。このままじゃくだらない柚木原さんが全国放送されてしまい多分マズいことになる。ここは断った方が、と柚木原さんに声を掛けようとしたところですでに彼女はマイクを受け取っていた。
「まずご職業は?」
「えっと、高校生です。公立の」
「今日はやっぱり遊びに来た感じ?」
「そうですね。近頃暑くなってきましたし。せっかくなら仲いいお友達と一緒に、って感じです」
「おお、青春だねー。ちなみに今日はどこから?」
「東京です。あんまり子供だけだと遠出も出来ませんしね。それに……」
◇◇◇
「やあっと終わった……」
「お疲れ様、柚木原さん」
「なんでこんなオフでまで完璧美少女やんないといけないのさぁ」と柚木原さんは私が手渡したソルティライチを飲みながらぼやいていた。「しょうがないよ、柚木原さんテレビ映り良さそうだし」と私は慰める。
「このままじゃなんjで「この女子高生おっぱいデカすぎwwww」みたいなスレ立てられて人気者になっちゃうぅ……」
「強いね柚木原さん」
そして少し考えると今度は「いやでも咲楽の水着見れてるしな……」と実質プラマイゼロ理論を使い出す柚木原さん。そしてすぐに元気を取り戻した彼女は私の手を引っ張って流れるプールの方へ走り出した。ちょうどその方向に人はいなくて、まさかと思いながら私は彼女に身を任せた。案の定、彼女は私を巻き込んだまま流れるプールに飛び込んだ。そして顔を出すと、思いっきり柚木原さんは叫んだ。
「夏、サイコー!!」
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