十八言目 柚木原さんと博物館

 柚木原さんは多趣味だ。他の人が勉強しても取れないような点数をノー勉で取っていくという心底腹の立つ生物でもある彼女は、本来高校生が勉強に当てている時間の内かなりの割合を趣味に当てている。

 ゲームやアニメ、漫画といった王道的サブカル趣味からプラモ塗装、フィギュア制作といった少々凝った物、いつかコミケへ持っていくための同人作りや好きが高じたアニメーション制作なんていうかなりレベルの高い趣味もあれば、蝉の抜け殻集め、アリの巣観察、虫取り、ザリガニ釣り等といった小学生みたいな趣味、そして落ちてるエロ本調査等といった男子中学生みたいな趣味までその活動は多岐に渡る。

 そして今回、私が巻き込まれたのは知的な趣味だった。


「見てー!半沢直樹ー!」

「良かったね柚木原さん」


 今日私が柚木原さんに釣れられて訪れたのは国立博物館。早速本館入ったところの大理石の大階段で柚木原さんははしゃぎにはしゃいでいる。どうやら柚木原さんは半沢直樹ごっこのために私にスーツ着てきてー」と連絡してきたらしい。

 幸いにも人はほとんどいないため、私達は良い感じに階段の上でそれっぽい感じの写真を量産していた。


「……これで満足?」

「うん。目的1つ目達成って感じかなー」

「1つ目?」

「そう。他にも色々見て回りたいのがあって」

「へえ、例えば?」

「これ」


 そう言って彼女は徐ろにYouTubeを見せてきた。そこにはどこかで見たことあるようなタイトル。NHKでやってる美術系の音楽番組のやつだ。名前は確か「びじゅチューン」とか言ってたはず。小さい頃に見てたのを覚えている。


「わー、懐かしいね、これ」

「私毎週リアタイしてるよ」

「マジで?最近どんなのあるの?」

「最近のだと桂離宮すき」

「急に風流人になったね柚木原さん」


 「結構昔に牛乳を注ぐ女バズってたなぁ」なんて懐かしそうに思い出しながら柚木原さんは慣れた感じで歩いていく。国立博物館の総合文化展示は高校生は無料で見れるので何かと「なんか見たことあるなー」なんて感じで流し見しながら歩いてるだけでもお得感がある。


「わー、老猿だ」

「実物デカいね」

「……おかしい、どの方向から見ても股間が……メスかな……」

「なんでそんな思考で美術を謳歌してるの?」


「あ、雨のやつだ。名前なんだっけ……」

「「名所江戸百景・大はしあたけの夕立」。歌川広重のやつ。ゴッホも描いてたやつだよ」

「ありがと。IQの落差ヤバいけど」

「ねえ咲楽、歌川広重が「海人と蛸」描いてたら歌川エロ重って呼べたよね」

「やっぱ変わってなかった」


「あ、咲楽。あれ見に来たんだよあれ」

「……!三日月宗近だ!モンストでしか知らないけど」

「びじゅチューンの三日月宗近は激アツだよ。今までのキャラめっちゃ出てくる。ほら」

「わ、ホントだ。風神雷神もいるじゃん」

「あと巷のお姉様方も大好きだよ」

「……そうだね」


「あ、松林図屏風だ。あれだけこの前びじゅチューンで見た」

「長谷川等伯のやつだよね。天下取ったら長谷川董卓に解明する予定だったらしいよ」

「取れてないじゃん天下」


 柚木原さんの解説はいつもの下らない話と彼女の持ち合わせているちゃんとした頭の良さが混ざっていて何だか不思議な感じだったけど、でもやっぱり柚木原さんらしいなって私は楽しかった。

 帰りにスーツのままの気取った感じでちょっと美味しい鰻を食べて、私達は家に帰った。

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