十六言目 柚木原さんと音楽
柚木原さんはよく音楽を聞いている。ジャンルは一切問わず、好きなものを気ままに聞いている。この前は「体調不良のドヴォルザーク、ゲボるザーク」みたいなことを言いながら「新世界より」を聞いていた。
「今日は何聞いてるの?」
「初音ミクのトルコ行進曲」
「わー、古」
「今日は何聞いてるの?」
「妖星乱舞」
「わー、古」
「……人が→偽りに集まる、ユ!」
「今日は何聞い……イガクか」
「今日は何聞いて……弾いてる……」
「これ?白日」
多種多様、アグレッシブの極地みたいな柚木原さん。一回Youtubeのプレイリストを共有してもらったことはあるけど、クラシックやらゲームBGM、ボカロに流行りのJPOPに懐メロ、挙句の果てには童謡とかなり好き放題している。「よくそんな追えるね」と言うと、「追えてない!」とサムズアップした。なんで完璧美少女やれてるんだろう柚木原さん。
「……あ、でも柚木原さん音ゲーとかやってないよね。なんで?」
「あー、音ゲーかぁ……」
何か苦い顔をした彼女に「悪い思い出ありそうだね?」と尋ねると柚木原さんは「いや、別にそんなんじゃ……」と言葉を濁す。
「じゃあ、苦手とか?」
「いや、別に私苦手なこととか無いし……」
「相変わらず発言ヤバいね」
「ただ、なんか音ゲーって頑張ると音ゲーじゃなくて譜面覚えゲーになるから。私覚えゲー好きじゃないし、それやるくらいならThe Witnessやる」
「でも柚木原さんウイポの銅札以上は大体ステータス覚えてるじゃん」
「実用を目的とした暗記と暗記を目的にした暗記は違うから……」
「まあいいや」と私は話題を戻す。
「それでさ、柚木原さんが前言ってたカービィのBGMあるじゃん」
「あ、ホワイトオフィス行進曲?」
「そうそう。それで気になったんだけど、柚木原さんの一番好きなBGMってなんなの?」
「カービィ?それとも全部?」
「うーん、どっちも」
「了解。ちょっと待ってね」
そう言うと、柚木原さんはいつもカモフラージュ用に開いているなんかの電子版の英字新聞みたいなのを閉じてカタカタとYouTubeを動かし始める。
「えーっと、あったあった」
そう言って、柚木原さんは分割画面に2つの曲を並べた。
「こっちがモンハンクロスの炎のメインモンスの曲で、こっちがカービィWiiの6面のマップBGM」
「あんま有名じゃないやつなんだね」
「根が逆張りオタクだからね。ディノバルドの方は結構評判良かった気もするけど」
「へえ。……そういえば、私モンハンってやったことないかも」
「マジで?サンブレ貢ぐわ」
「言い方。……でも、そんな面白いなら買ってみようかな」
「じゃあさ、夜一緒にやろうよ。ネットつなげて」
「……しょうがない、後ですぐ買ってくる」
「やった」
それから火の着いた柚木原さんは、1日中ホワイトボードに「このゲームのこのBGMおすすめ!」と隙あれば私に布教しようとしてきて、「そんなお小遣いないよ」と答えると少しショックを受けていた。でも励ますと「じゃあ貢ぐね」とか言い出すから、これくらいで丁度いいのかもしれない。
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