十五言目 柚木原さんと朝ご飯
「おはよぉ〜……」
「おはぁ……」
「おはようございまぁー……」
朝食ビュッフェ開始時間の7時30分に遅れること20分。私達は急いで一階のレストランに降りて、既にご飯を食べていた柚木原さんのお父さん達に合流した。
「やっと起きたんだ、姉さん」
「しょうがないじゃん、3時くらいまでマリパしてたんだし」
「お姉ちゃんも氷室さんも強すぎんだもん……」
「一葉が弱いんだよ」
残念ながら柚木原さんのは正論パンチ。私と柚木原さんは7:3で1位2位が入れ替わるくらいであったが、一葉ちゃんは終盤基本的にCPUとの最下位争い。本人曰く「クレーンゲームとかは出来るし……!」とのことだったが「私の方が20倍出来るよ」と柚木原さんが返すと彼女は顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。どうやら図星らしい。
「っていうかお父さん達は夜何してたの?」
「僕かい?僕達はお風呂入って……」
「あ、恋バナしてたっす」
「恋バナ?!」
「椿樹今恋バナって言った?!」
顔を見合わせ、「あり得ない」と私達は呟いた。椿樹は見た目は確かに女殴ってそうとかDV彼氏だとかその類ではあるが、その実ものすごく純情で浮気ととか一切しないし自分を好きになってくれた人を好きになるタイプ。そして柚木原さんのお父さんも話を聞く限りではバリバリの草食系。「なんでJK二人とJCが徹夜でゲームしてんのに男二人が恋バナしてんのさ……」と一葉ちゃんは唖然と口を開いている。
「……ところで、三人とも取ってこなくて良いのかい?」
「あ、いえ……行く?柚木原さん」
「うん、いこいこ」
男共の方が現役JKである自分達よりもずっと「らしい」行為をしていたという事実に打ちのめされそうになりながら私達は料理コーナーの方へ向かった。一葉ちゃんは部屋にスマホを忘れたらしく、「すぐ戻ってくるから!」と眠気覚ましに駆け出してった。
「あー、やらかしたぁ……」
「やらかしたって何を?恋バナし忘れ?」
「いや、違くて……そうなんだけど違くてさ、もっかいお風呂入りたかったなぁって」
「そうなの?何かやり残した?」
「うん。……お風呂で浮いたらさ、風呂でフローじゃん」
「……え?」
「泳ぐのはダメだけど浮かぶのはセーフだよね」なんてかまぼこを取りながら嬉々として語る柚木原さん。私は頭の中で、ドヤ顔で露天風呂の広い湯船に浮かんでいる柚木原さんを想像し、プフっと吹き出した。
「そのためだけに?」
「え、うん」
「……分かった、後で行こっか。遅めの朝風呂」
そう言いながら私はほかほかご飯の上にしらすをたっぷりと乗せる。ちなみに柚木原さんはこういうところで健康を気にするやつは馬鹿だという過激派なので、その皿の上にサラダなんていう軟弱者は全く乗せていない。漢のベーコンウインナーポテト山盛り体制である。今は米1:しらす3の超絶しらす丼を作っているところだった。
「柚木原さん、良く食べるよね」
「うん。いっぱい食べる君が好きってあるじゃん。あれ狙ってるんだ」
「あれ狙うもんじゃないよ」
「でも私くらいの美少女ならたくさん食べてるだけでバズるんじゃ……?」
「そのメンタルパワーどこから来てるのさ」
「顔」
「一回殴られなよ」
次第に目が覚めてきたのか、キレが出てくる柚木原さん。両手には山盛りの皿が積まれたお盆。太るよという心配より食べ切れるの?という不安が先にくるレベル。
席に戻ると既に食べ終わったらしい柚木原さんのお父さんと椿樹が帰り支度をしていて、戻ってきた私達を見つけるなり声を掛ける。ついでに戻ってきた一葉ちゃんもいた。
「僕達はもう戻るけど、彩花達はゆっくりしてて大丈夫。そうだな……それでも10時くらいには出たいから、あと2時間くらいだけれど」
「了解。それぐらいあったら私も咲楽も十分食べれると思うし」
「ちょっと待って!私もすぐ取ってくるから!」
そう言ってまた駆け出す一葉ちゃん。私達はパキッと割り箸を割ると、向かい合って手を合わせた。
「いただきます」
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