六言目 柚木原さんのお泊り会

「……出来たよ、柚木原さん」

「おおー!」


 私は特大カップ焼きそばにマヨネーズ、ポテトサラダ、明太チューブをぶちまけた劇物を差し出す。時刻は現在23時。スマブラは現在69戦15勝。取り敢えず求めるのは追加のアプデである。DLCとかいうやつさぁ……。


「っていうかそもそもスマブラ飽きてきたんだけど」

「じゃあ次桃鉄!」

「30年がいいな」

「りょー」


 プシュッと響いたのは彼女が900mlコーラを開ける音。そのままラッパ飲みに移行するのは酒飲みの才能がある気がする。そしてそれに釣られて私もドデカミンストロングの蓋を開ける。目に入ったのは特大カップ麺に突き刺さった二本の割り箸。ぐうっと腹の音が鳴る。身体が栄養補給を求めているのが分かる。「いただきます」と二人で手を合わせ、桃鉄の起動画面を眺めながらの夕飯……というよりは酒がないだけの酒盛りの開幕だった。


「咲楽ぁ、ご飯食べながら言うことじゃないんだけどさぁ」

「何?」

「駅のトイレのトイレットペーパーって切れ悪いよね」

「同意するけどご飯中にする話じゃないね」

「そう言ってんじゃん」

「じゃあ全面的に同意」


 脳にカロリー爆弾が染み渡る。一口食べるたびに「太る」という確信が喉を通る。時計を見るたびに背徳感との混濁が脳を襲う。最高に、私は今幸せだと実感してる。


「さいっこぉ……」

「わー、幸せなタイプの脳破壊だ」

「ふとるぅ……ふとっちゃうぅ……」

「……もしかしてこれ「忘れられない夜」ってやつなんじゃ……」

「セクハラやめてよ」

「うわ正気に戻るタイプのあれじゃん」


 魚肉ソーセージをポッキーかの如く頬張っている柚木原さん。その手元はカチャカチャと動いて桃鉄の初期設定を打ち込んでいる。「食べさせてー」と駄々をこねる彼女の口にカップやきそばをガッツリ突っ込むと、柚木原さんはそれを懸命に飲み込み、そして「確かにトぶかぁ」と笑った。


「……あ、準備出来たわ」

「了解。じゃぁ始める?」

「おっけ行こう」


◇◇◇


「おっけナイス柚木原さん!」

「そっちもカード完璧じゃん!」


 16年目。さくま名人に二人がかりでキングへ!カードと屯田兵カードを叩き込み、目的地鹿児島から遥か離れた知床まで追放した私達。最初はちゃんと対戦していたのだが、最終的には私達vsさくま名人の戦いへと成り果てていた。

 そして前述の通りさくま名人を追い落とすことにとうとう成功した私達。3月の決算をもって初めて私達の合計資産がさくま名人を追い越したその瞬間、私達は思いっ切り抱き合った。


「咲楽、桃鉄止めない?」

「うん。これ以上のハイライト無いよね」

「時間は……2時くらい?」

「2時半だよ。次どうする?」

「……あ、ニコニコ見ようニコニコ」

「私ブロリーMADで時止まってますけど大丈夫?」

「まだやってるよあれ」

「マジで?」


 カチカチとパソコンを動かす彼女。Steamからの通知をまとめて消し飛ばしてブラウザを開くと、ブックマークからニコニコ動画へページが飛んだ。


「何見る何見るー?」

「……あ、ちょっと前にゲッター流行ってたよね?私あれ見たことないんだけど……」

「見よう見よう」


◇◇◇


「……んむぅ……あさぁ……?」


 私は目を擦った。昨晩のこと、いや今日か、今日だ。今日のことはかなり曖昧で、まず、何となく服を着ていないことに気がついた。続けて一枚の毛布を柚木原さんと共有していたことに気がつき、そして隣の彼女もスヤスヤと裸で眠っていることに気がつく。サーッと血の気が引く。

 マズい、この、二人で裸で朝を迎えるシチュエーションはかなりマズい。しかし記憶はあんまりない。相当熟睡した気がするし、何よりちゃんと外ではスズメか何かがチュンチュンとよく泣いている。拝啓、お母さん。この度あなたの愚娘は……。


「バブルの火星、マーブ」

「……は?」

「おはよ、咲楽」


 「朝からイマイチだったかぁ」と彼女は生まれたままの姿で笑った。

……え本当に私一線超えた?

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