第15話 自分のことしか考えられなくなる

二階が完成したのは六月。完成予定日から大分遅くなりました。


私は精神が本当参ってしまい、一時完成したばかりの脱衣所に鍵かけて引きこもっていました。自分の部屋ではなく、トイレむき出しの脱衣所に。そこしか鍵がないので。というか二階はまだ工事中なので。


父は、だんだん自分のことしか考えられなくなっていきます。


工事中に私、ノロウィルスにかかりました。


それで床でのたうち回っていても父はスーッと車椅子でとおりすぎます。


床で倒れてもがいているのに気にしません。いや。もともとそういうタイプなのかも。


昔から風邪ひいても仮病だとか言ってくる人でしたし、オーバードーズで意識なく倒れている私を前に、タバコ吸ってテレビ見ていたらしいので。もともとなのかもしれません。


まあこんな風に、父は家族に配慮することができなくなりました。


でも仕事には復帰する。最初、社長から杖一本で歩けるようにと言われましたがどう考えても無理です。


会社は、父が三十代の時に独立し、三人か四人で回している小さな会社です。


月数回竹田先生のいる病院に付き添うのですが、まず私にリュックを持たせます。


傘を持たせます。


松葉杖を持たせます。


ペットボトルを持たせます。


更に何か持たせようとして来ます。


「もう両手ふさがって持てないんですが」


といって、ようやく気付く。


歩けず車椅子ですが、松葉杖を使って手の力だけで歩くことがあります。


足の神経少しだけ戻っているのでほんのちょっぴり、足動きます。


仕事をし、家の駐車場から家の中にあがるまでは、今も松葉杖でゆっくりゆっくり帰ってきます。


「いつまで俺を働かせるんだ?」


と言っていますし、確かに定年退職していてもおかしくない年齢なのですが、働いてくれないと、家が暗いままです。


父の雰囲気、暗くて、圧があるんですよね。家では一日中テレビを見ています。


見ていないのにテレビが休みの日は一日中ついています。


父は根っからのテレビっ子です。もう「子」という年齢でもない。


テレビ爺……? 


失礼しました。


これ、会社辞めると家の中に閉じこもって、ずっとテレビを見ているだけのような気がします。家事もしませんし、しようにも車椅子生活でできませんし。


でも、母が先に死んだらどうするの? お茶くらい淹れられるようになりなよ。


と家庭内での少しの自立を促しても聞く耳持たずです。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る