最終話 最終夜

いつか必ずこの様な日がやってくることを何処かで覚悟していたのだろう。

皆で廃ビルを抜けて街のたまり場に顔を出した時のことだった。


「おい!お前標だろ!女を侍らせて何のつもりだ!?」


いつだったか僕の元恋人を寝取ってくれた男子がイキり散らかして街で騒いでいる。

僕は反論の言葉を口にしようとして…


その前に夜見と聖が駆け出して…

その男子生徒の顔面めがけて勢いの良いストレートをお見舞いしていた。

僕は少しだけ彼のことを不憫に思ったが…


「おい。何処の誰か知らないが…標を馬鹿にするなよ?」


「堕天使を舐めるんじゃないわよ?それ以上汚い口を開いたら…」


夜見と聖は倒れ込んでいる彼に完全なる怒気で相対していた。


「なんだよ…もうこんなところ来ねぇよ…」


彼はそれだけ言い残すとどうにか立ち上がろうとしていた。

しかしながら僕はしっかりと伝えないといけないことを脳内で思い浮かべていた。


「ちょっと待って。君が元恋人を寝取ってくれたお陰で…

僕は今すごく幸せなんだ。

君には感謝しているよ。

君のお陰で僕には居場所まで出来たんだ。

本当にありがとうな」


僕の無邪気な笑みと感謝を受けて彼は顔面を真っ赤にさせて悔しそうに逃げていく。


「ありがとうねぇー!」


彼の背中に向けて大きな声で感謝を告げるが…

彼は返事もせずに逃げていくだけだった。


「あれ…?彼の名前なんだったっけ…?」


僕の独り言を彼女らはしっかりと耳にしていたようで…

その場には大きな笑いが起こるのであった。




そうして僕らは僕らだけの廃ビルに戻っていくと…

無造作にリビングのソファに腰掛けると夜見は皆が見ていると言うのに僕に跨った。


「もう良いよね?」


その誘いの言葉を僕はどの様にして応えるべきか一瞬だけ悩んでいた。

しかしながら…


「夜見だけずるいわよ!私も混ぜなさい!」


聖も僕のとなりに腰掛けて…


「私も…」


「じゃあ俺も!」


そうして僕らはリビングで…

初めて五人で混じり合うのであった。

長い行為は朝が来るまでずっと続き…

僕らは疲れてしまいリビングで全員が横になっていた。


「夜見さんの部屋はまだ入っちゃだめ?」


僕の唐突な問いかけに夜見は複雑な表情を浮かべる。

しかしながら最後は笑顔を浮かべて…


「もう家族のようなものだものね。秘密はないわ。皆ついてきて」


そうして僕らは初めて夜見の部屋の中に入り…



そこに何があったかは…

僕ら家族だけの秘密なのであった。



逃げてきた僕らはその街で家族になる。

悪魔に天使に様々な種族の人間といつまでも繁栄する世界を作り上げていくのであった。


                 完

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夜に生きる。朝から逃げる。全てから逃げた僕に手を差し伸べてくれたのは鳥肌が立つほどに美しい美女(悪魔)だった… ALC @AliceCarp

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